「ペット防災」災害報道を鵜呑みにしないで。災害支援の原則を無視するメディアの問題点

災害報道を鵜呑みにしないで。ペット防災の原則を無視するメディアの問題点
災害が発生したとき、多くの人がテレビやインターネットのニュース速報に釘付けになります。報道は、被災地の状況を知り、支援の輪を広げるために重要な役割を果たします。しかし、その光の当て方が、時として現場の本質を歪め、本当に必要な支援の形を見えなくしてしまうことがあります。
特に「ペット」に関する報道では、その傾向が顕著です。私たちは、熊本地震と能登半島地震の事例を通じ、災害支援の鉄則である「被災者中心」「地元主体」という原則が、メディアによっていかに軽視されがちかという深刻な問題を目の当たりにしてきました。
感動ストーリーを求めるマスコミの姿とそれを欲する視聴者
熊本地震で、ペットと飼い主の避難所「わんにゃんハウス」を運営していた時のことです。ある有名な動物番組のディレクターが取材に訪れました。
私たちは、この場所が単なるペットの一時預かり所ではないことを時間をかけて説明しました。そこでは、飼い主さん自身が毎日の給餌や清掃の当番を決め、互いに声を掛け合い、ペットの体調の変化を共有していました。震災で全てを失い、無力感に苛まれていた人々が、「ペットの世話」という具体的な役割を通じて、少しずつ日常と自信を取り戻していく。まさに、「被災者中心」の考え方で、飼い主の心の復興を目指すリハビリテーションの場でした。この地道な取り組みの先にこそ、殺処分減少や人と動物が共生する社会への道筋があると、私たちは信じていました。
しかし、私たちの熱弁の後に返ってきたディレクターの言葉は、そのすべてを空虚にさせるものでした。
「地震でやむなく手離す事になった動物が、新しい里親さんに迎えられる所が撮りたいんですよ」
テレビというメディアが、限られた時間で視聴者の関心を引くために、シンプルで感情に訴えかける物語を求めるのは理解できます。もとろんそんなストーリーを欲する視聴者もいます。
しかし、それは支援の本質ではありません。求められていたのは、被災者が自らの力で立ち上がるプロセスではなく、第三者が安心して消費できる、手軽な「感動の物語」でした。これでは、主役であるはずの被災者は、感動を演出するための脇役でしかありません。メディアのこうした姿勢は、「被災者中心」という大原則から、あまりにもかけ離れていると感じざるを得ませんでした。
「地元主体」:ルールを無視した“英雄”報道がもたらす致命的な過ち
記憶に新しい能登半島地震。発災直後、石川県は公式に「今は県外からのボランティアは来ないでください」と強く要請しました。これは、人命救助や緊急車両、支援物資の輸送ルートを確保するための、「地元主体」の判断に基づく当然の要請でした。
しかし、この公式要請を無視した団体が現地入りし、犬を救出する様子が全国ニュースで「美談」として報道され、彼らは英雄視されました。ですが、これは災害支援の原則から見れば、断じて称賛されるべきではない「身勝手な行動」です。
なぜなら、こうした無秩序な人間の流入は、深刻な事態を引き起こすからです。
まず「ロジスティクスの崩壊」。支援ルートが渋滞し、本当に必要な人命救助や物資輸送を妨げます。そして最も重要なのが「指揮系統の混乱」です。現地の地理や被災状況を熟知した地元行政や自衛隊の活動を妨げ、二重救助や危険地帯への侵入など、二次災害のリスクを増大させます。
このような、支援の妨げになりかねない行為を「感動的」と無批判に取り上げるメディアは、災害支援の基本を理解しているのでしょうか。善意が必ずしも善行に繋がるとは限らない。その厳しい現実を伝えることこそ、報道機関の責任ではないでしょうか。
報道に惑わされない。私たちが守るべきペット防災の鉄則
では、本当に必要なペット防災とは何でしょうか。それは、決してテレビ映えするヒロイズムではありません。災害支援の原則に則った、極めて地道な活動の積み重ねです。
平時の備え: 自治体と協力してペット同行避難が可能な避難所のリストを作成・共有し、運営マニュアルを共に策定しておく。いざという時に協力してくれる地域の動物病院やペットホテル、一時預かりボランティアのネットワークを構築しておく。
災害時の行動(地元主体): 行政や地元の対策本部が発信する公式情報をもとに、個人の判断で動かない。支援物資を送る際も、自治体が公表しているリストと送付方法を厳守する。
支援の形(被災者中心): 物資を一方的に送るだけでなく、被災した飼い主が何に困り、どうしたいのかを丁寧にヒアリングする。彼らが再び自分の力でペットとの生活を再建できるよう、情報提供や心のケアといった側面から支える。
これらの活動はニュースになりにくいですが、これこそが真にペットの命を救い、飼い主の未来を支える活動なのです。
残念ながら、こうした災害支援の原則や報道の問題点は、テレビで詳しく特集されることは稀です。だからこそ、私たちは自らの言葉で、伝え続けなければならないと考えています。
私たちのNPO法人が開催するペット防災セミナーでは、単に「何を準備するか」という物資の話だけには留まりません。熊本地震や能登半島地震のリアルな事例を基に、なぜ「地元主体」「被災者中心」でなければならないのか、その理由を具体的にお伝えしています。
「感動的なニュース」の裏側を想像し、その行動が本当に被災地のためになっているのかを冷静に見極める力(メディアリテラシー)。それもまた、これからの時代に不可欠な防災知識です。私たちのセミナーは、あなたとあなたの大切な家族を守るための知識だけでなく、社会全体で災害に立ち向かうための「視点」を提供する場です。ぜひ、報道されない「ペット防災の真実」を学びにきてください。
▼NPO法人ペット防災ネットワークセミナー