ペット同行避難 「何頭避難してくるのか?」を把握する方法

はじめに:同行避難を「言葉」から「現実」へ
「災害時のペット同行避難を受け入れます」
近年、このように表明する自治体が増え、ペット防災への意識は着実に高まっています。これは大きな進歩であり、ペットと暮らす私たちにとって心強い動きです。
しかし、この「受け入れ」という言葉を、より安全で確実な「現実」のものにするためには、私たちが社会全体で向き合うべき、見過ごされがちな課題が残されています。
それは、「災害発生時、避難所にどれだけのペットが来るのか」という、具体的な数の想定です。この基礎的な情報が不足している現状は、より実効性のあるペット防災体制を築く上での、一つの障壁となっています。本記事では、この「ペットの頭数把握」という大切な視点に焦点を当て、ペット防災を次の一歩へ進めるための糸口を探ります。
なぜ「頭数把握」が大切な視点なのか?
避難所の準備について少し想像を巡らせてみれば、なぜ頭数の把握が大切なのかは、ごく自然に理解できるはずです。
避難所でのペットの受け入れに関して、人とペットのエリアをどう分けるか?動物同士のトラブルを避けるためにどれくらいの広さが必要か?そもそも同行避難してきたペットをどこで受け入れるのか?
これらの計画はすべて、避難してくるペットの「数」が分かって初めて、その精度を高めることができます。もちろん、完全に正確な数を予測することは不可能です。しかし、おおよその規模感を把握しているかどうかで、準備の質、そして避難所運営の円滑さは大きく変わってきます。
「災害時はペット同行避難を受け入れる」そう言うのであれば、まず「地域にどれくらいのペットがいるのか?」「災害時どのくらいの頭数が避難所に来る可能性があるのか?」を知ろうとすることは、ごく自然な第一歩と言えるでしょう。
活かされていない既存データ「畜犬登録」
特に犬に関しては、飼育頭数の概数を把握するための足がかりとなる制度が、すでに存在しています。狂犬病予防法に基づく「畜犬登録制度」です。
この制度は、狂犬病のまん延防止を主目的としていますが、自治体はこれによって管内の犬の登録情報を保有しています。もちろん、未登録の犬もいるためデータは完璧ではありません。しかし、対策の精度を高めるための基礎データとして、この情報を活用できる可能性は十分にあります。
現状では、多くの自治体で、この既存データが防災計画に十分に活用されているとは言えない状況が見受けられます。
進まない現状を示す一つの事例
この課題を象徴する出来事が、過去にありました。
数年前、ある自治体で開催されたペット防災に関する協議会の席で、市の獣医師会会長から「まず、市が保有する畜犬登録制度のデータを活用し、災害時に避難所に来る可能性のある犬の頭数を把握してはどうか」という、専門家の立場から見て非常に合理的で、かつ具体的な提案がなされました。
しかし、この的を射た提案が、その後に具体的な調査や行動として実行されることはありませんでした。これは決してその自治体だけの特殊な例ではなく、多くの自治体が直面している、ペット防災の歩みが遅々として進まない現状を示唆しているのかもしれません。
猫の登録制度という、これからの課題
さらに、猫については、犬の畜犬登録のような全国規模での公的な登録制度が存在しないため、飼育実態の把握はより一層困難な状況にあります。災害時の避難計画や迷子対策を考える上で、これは大きな課題です。将来的には、猫についても何らかの形で所有者を明確にする仕組みづくりが望まれます。
まとめ:今、できることを着実に
このように、犬や猫の飼育実態の把握には、まだ多くの課題が残されています。
平時の飼育頭数データはもちろん、過去の災害でどのようなペットが、どれくらい避難所に身を寄せ、どのような問題が起きたのか。そうした「災害時のデータ」の蓄積と分析も、未来の対策を考える上では不可欠です。
ペットの災害対策の基本として、こうしたデータを活用し、やれることから一つ一つ計画的に進めていくこと。その重要性は誰もが理解できるはずですが、残念ながら多くの場面で、その第一歩が踏み出せていないのが現状です。
本気でペットの災害対策を講じるのならば、「実際に避難所にどのくらいの数のペットが避難してくるのだろうか?」まず最初にそれを考えるのが自然ではないでしょうか?
そのデータの精度には問題があるとしても、手元にあるデータも見ず、具体的対策を講じる事が可能でしょうか?それには大きな疑問があります。
「対象の数」を把握しようともしない現状は何を意味しているのか?それを考える必要があります。
もちろん社会や行政の取り組みを待つだけでなく、私たち飼い主一人ひとりが、まず自身の責任を果たすことも大切です。
もし、あなたの愛犬がまだ畜犬登録を済ませていないのであれば、まず登録を行うこと。それが、社会の一員として、そして愛犬を守る飼い主として、今すぐにできる確実な一歩となります。