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熊本地震の現場から

益城町わんにゃんハウス 熊本地震ペット支援

益城町わんにゃんハウス 被災者支援としてのペット支援

「災害時のペット支援」と聞くと、多くの人がまず思い浮かべるのは、被災した動物たちを救うために寝る間も惜しんで現地で活動する動物愛護団体の姿かもしれません。
もちろん、そうした活動も必要です。

しかし、2016年の熊本地震で大きな被害を受けた益城町に開設された「益城町わんにゃんハウス」では、それとは全く異なるアプローチで、被災したペットとその飼い主を支える、もう一つの支援の形がありました。
それは、「動物愛護」という枠組み以上に、「被災者支援」という視点に重きを置いたものでした。

「保護シェルター」ではない、飼い主とペットのための「コミュニティ」

そもそも「益城町わんにゃんハウス」は、いわゆる被災ペットの保護シェルターではありませんでした。動物愛護団体が主体となって動物を保護・管理する施設とは一線を画し、その最も大きな特徴は「飼い主自身がペットのお世話を行うこと」を入居の条件としていた点です。

このプロジェクトは、地震発災直後、避難所内にペットと共に避難していた飼い主たちが、ペットを屋外に出さざるを得ない状況に直面したことから始まりました。私たちが益城町総合運動公園でペット同行避難支援を行う中で、益城町からその計画を知らされ、急遽、総合運動公園の施設管理者であるYMCAと協議。敷地内にコンテナハウスを設置し、「わんにゃんハウス」を開設するに至ったのです。

当初は寄付を募って運営する予定でしたが、益城町、施設管理者との密な連携、そして私たちが発災直後から避難所でペットの飼い主さんたちに「飼い主の会」の立ち上げを促し、飼い主としての責任を自覚し、わんにゃんハウスの運営にも主体的に関わる形を進めていたことが評価され、環境省が支援を申し出てくれました。
私たちスタッフの主な仕事は、飼い主さんたちへのサポートと適正飼育のアドバイスで、ケージの清掃、給餌、お散歩は飼い主さんが行いました。
それまでペットをどこかに預けた経験もなく、ケージで飼育した経験もない飼主さんたちの中にはわんにゃんハウス開設直後は不安を口にする飼主さんもいらっしゃいましたが、スタッフ、多くのボランティアのみなさんとの交流でその不安は解決されました。
また、同じ境遇の飼い主さん同士での「共助」の姿も多く見られたのがわんにゃんハウスの大きな特徴の一つです。被災者だからといってみなさん避難所でじっとしている訳ではありません。
自宅の片付け、役場での手続き、そして仕事と全く暇ではありません。
当然朝散歩に連れて行けない、ケージの清掃が間に合わない、そんな日もありました。
でもそんな時は他の飼い主さんが自分のいぬを散歩させる時に一緒に散歩させてくれたり、隣のケージを清掃してくれたりとお互い助け合う姿がありました。
まさに飼い主、ボランティア、そして私たち運営者が一体となって運営する「コミュニティ」そのものでした。

「動物愛護」の枠を超えた、心に寄り添う多様な支援

わんにゃんハウスには、全国から本当に多くの方々がボランティアとして駆けつけてくれました。
いわゆる動物愛護団体の方々の姿はほとんどなく、学生さん、フィギュアスケートの羽生結弦選手のファンクラブの方々、トリマーさん、そして作家さんなど、これまで「動物愛護」という言葉とは直接結びつかなかったような多様な背景を持つ人々が、それぞれの形で温かいサポートを提供してくれたのです。
もちろん、地元熊本の獣医師会も、専門的なアドバイスなど、支援をしてくださいました。

そんな数々の支援の中でも、特に心に残っているエピソードがあります。北海道の作家さんが、わんにゃんハウスにいた全ての犬と猫のキーホルダーを一つ一つ手作りし、プレゼントしてくれたのです。

熊本地震で家を失い、大切なペットと共に避難したものの、避難所では肩身の狭い思いをせざるを得なかった飼い主さんたち。その手には、愛するペットの姿が刻まれた温かいキーホルダーが握られていました。キーホルダーを受け取った飼い主さんたちの、笑顔は今も忘れられません。

これは単なる物資支援ではありません。被災し、不安とストレスを抱える飼い主さんたちの心に深く寄り添う、「心のケア」としての支援でした。災害時のペット支援は、ただ動物を保護するだけでなく、その動物を家族として愛する「被災者」である飼い主さんの心を支えることでもあるのだと、改めて強く感じさせられました。

益城町わんにゃんハウスでの経験は、災害時におけるペット支援のあり方について、多くの重要な教訓を与えてくれました。
それは、「動物愛護活動」という枠組みを超えた、「被災者支援」としての視点です。
ペットは家族の一員であり、そのペットを失うこと、あるいはペットと共に避難生活を送ることの困難さは、飼い主にとって計り知れない精神的負担となります。
動物を保護することと同時に、飼い主の心のケア、そして飼い主自身が主体的にペットとの生活を再建していくためのサポートが不可欠なのです。
そして、その支援は、特定の団体だけが担うものではありません。わんにゃんハウスが示したように、学生さんや個人、専門技術を持つ個人など、多様なバックグラウンドを持つ人々が、それぞれの知識や経験、そして何よりも「被災した人々の力になりたい」という純粋な思いを結集させることで、よりきめ細やかで、心に響く支援が生まれるのです。

行政、施設管理者、専門家、ボランティア、そして何よりも被災した飼い主自身が連携し、それぞれの責任と役割を果たすこと。これこそが、困難な状況を乗り越え、ペットと共に生きる希望を繋ぐための鍵となります。
益城町わんにゃんハウスの小さな灯りは、これからの「ペット防災」、そして「災害支援」のあり方を考える上で、大きな示唆を与えてくれています。
それは、困難な状況下であっても、人と人が共に支え合う事です。

そしてそこには声高らかに叫ぶ「動物救済」も、他者と比較する「自己犠牲」も必要ではありません。

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