2026年改訂環境省ガイドラインの要点と残された課題

現在、「人とペットの災害対策ガイドライン」改訂版の原稿案が示され、次期改訂に向けた骨格が見えてきました。まだ正式な改訂前という段階ではありますが、現場で支援を続ける私たちから見ても、非常に重要な方向性が打ち出されています。
今回の改訂案が示すポイントは、大きく分けて以下の3点になります。
2026年のガイドライン改訂に向けた3つのポイント
部局間の連携強化で「同行避難」を促進
避難所での人とペットの「住み分け」の具体例を解説
同行避難を基本としつつ、在宅避難など他の選択肢(分散避難)も示す
現在のガイドラインは、熊本地震での検証を基に作られた指針です。
そして今回の改訂案は、能登半島地震におけるペット同行避難の課題を教訓として策定が進められています。
災害対策の基本は、過去の被災地で起きた「現実の検証」に基づかなければなりません。
一般論や机上の空論は、実際の被災地では到底通用しないからです。
今回の改訂案に示された内容は、過去の被災地で幾度となく繰り返されてきた混乱を断ち切るための、一歩です。
誰一人取り残さない「みんなの安心」を実現するためには、こうした実態に即した方針のアップデートが不可欠なのです。
「ペット問題は社会インフラの課題」という前提
平時において、ペットを飼育している世帯は全体の約3割にのぼります。
つまり、災害発生時には被災者の約3割がペットと共に被災することになるのです。
ペットの同行避難は、避難をためらう飼い主自身の命を守るための重要な施策です。
さらに、この3割の人々が抱える課題を放置することは、避難所全体の衛生環境悪化やコミュニティの崩壊を引き起こし、結果として被災者全体の問題に発展しかねません。
だからこそ、災害時のペット問題は決して飼い主だけの問題はなく、被災地全体に関わる社会インフラの問題として捉える必要があるのです。
「部局間の連携強化」が同行避難を前進させる理由
これまで、自治体のペット災害対策における最も大きな壁は「縦割り行政」でした。
多くの場合、ペット問題は「動物愛護担当部署」のみに任されがちだった現実があります。
しかし、避難所の開設や運営、危機管理施策全般を担うのは「防災部局」です。防災部局の積極的な関与なくして、実効性のある対策が進まないのは当然のことではないでしょうか。
当法人は、自治体の協議会や講演を通じてこの課題を一貫して訴え続けてきました。
今回の改訂案で、動物担当と防災担当の連携の必要性が改めて明記されたことを高く評価しています。
防災部局が入ることで起きる具体的な変化
これまでは、避難所運営を司る防災部局と動物担当部署の連携が不足していました。
そのため、避難所におけるペット受け入れ体制の具体化が長らく遅れていたのです。
しかし、今回の改訂により、この課題がようやく具体的に進展すると見込まれるでしょう。
なぜ、動物担当部署単独では対策を進めるのが難しかったのでしょうか?
その最大の理由は、避難所の開設権限やスペースの割り振り、資機材の調達といった実務的な決定権の多くを防災部局が握っているからです。
動物担当側がいくら同行避難の重要性を訴えても、全体計画との調整ができなければ、現場のマニュアルに落とし込むことは困難でした。
今後、防災部局が本格的に関与することで状況は変わるはずです。
ガイドライン案にも示されている通り、平時から「飼養頭数と受入れ可能頭数の情報共有」などを両部局が連携して行うようになります。
これにより、ペット用のスペース確保や物資の供給ルートが、自治体全体の防災計画へしっかりと組み込まれることになります。
結果として、受け入れ拒否などのトラブルを未然に防ぐ体制づくりが加速していくと期待できるのです。
避難所ごとの「住み分け(ゾーニング)」が必要な理由
2つ目のポイントである避難所内での「住み分け」についても、当法人が長年訴え続けてきたテーマです。
避難所には、動物との暮らしが苦手な方や、深刻な動物アレルギーを持つ方もいらっしゃいます。
そのため、人の居住区と動物の動線を分ける「ゾーニング」が不可欠となるのです。
ガイドライン案では、避難所での人とペットの住み分けについて、避難者数や施設の状況に応じた検討が必要だとされています。
画一的ではない「それぞれの避難所」に合わせたルールを
ここで重要なのは、学校の体育館、公民館、あるいはテントなど、避難所によって規模や環境が全く異なるという点です。
すべてに当てはまる画一的なゾーニング基準を設けることは不可能に近いでしょう。
だからこそ、「それぞれの避難所」の実情に合わせた個別具体的なルール作りが求められます。
その際、自治体の職員だけで判断するのではなく、動物担当部署や獣医師会といった専門家によるアドバイスを取り入れることが重要です。
そして何より、災害が起きてから考えるのではなく、「事前」に受け入れ場所や受け入れ方法を明確にしておくことが、混乱を防ぐ唯一の手段となります。
「分散避難」の提示に潜む危惧と飼い主のリアル
3つ目のポイントとして、在宅避難や車中泊といった「分散避難」の選択肢が示されたことについては、現場を知る人間として強い危惧を抱いています。
指定緊急避難場所や避難所以外に避難する行動は「分散避難」と呼ばれ、様々な避難の形があることは事実です。
しかし、ペットがいるからという理由で、避難所へ行くことを躊躇し、結果的に車中泊や在宅避難を選択する飼い主は非常に多いのが現状です。
支援の網の目からこぼれ落ちるリスク
内閣府の調査によれば、車中泊や在宅避難をしている被災者の情報を把握し、支援する取り組みを具体化している自治体はごくわずかであり、9割近くが「支援の取り組みなし」と回答しています]。
つまり、現状のまま分散避難を選択すれば、行政からの支援物資や重要な情報が一切届かないリスクが極めて高いのです。
制度として分散避難を提示するのであれば、同時に彼らへの情報伝達や物資支援の枠組みを自治体が構築しなければ、ただ見捨てることになりかねません。
自治体にはこの課題の解決が求められます。具体的には車中泊、在宅避難の情報の把握、その情報を基にした支援のあり方です。
もちろん災害時の基本は飼い主による「自助」であることに変わりはありません。
ペットと暮らす人たちは「車中泊」や「在宅避難」を選択するのであれば、災害に対するしっかりとした備えが必要である事は言うまでもありません。
大切な家族である愛犬・愛猫を守るためには、平時からの正しい備えが必要です。当法人の支援経験をもとにまとめた【ペット防災ガイド】を詳しくご覧ください。
【結論】制度の具体化を注視し、一層の「自助」を備える
今回のガイドライン改訂案により、これまでペット防災における長年の課題とされてきた「部局間連携」や「ゾーニング」といった要素が、ようやく制度の土俵に乗り、前に進もうとしています。この点は大きな希望と言えるでしょう。
しかし、忘れてはならないのは、今回改訂で触れられている内容の多くは、過去の災害からすでに「明確な課題」として指摘され続けてきたものだということです。
国が指針を示したとしても、それが各自治体の地域防災計画に落とし込まれ、どこまで現場で「具体化」されていくのかは、厳しく注視していく必要があります。
公助や共助の体制整備を待ち望むだけでなく、飼い主一人ひとりが「自分とペットの命は自分で守る」という強い意識を持つことが重要です。
日頃の健康管理や社会性の育成といった「自助」の徹底こそが、いざという時の選択肢を広げ、ペットの命を繋ぐ最大の武器となるのです。

















