2026年改訂予定の環境省ガイドラインの要点を解説

先日、環境省から「人とペットの災害対策ガイドライン」改訂の概要が公表されました。
熊本地震の検証を基に作られた現在の指針に能登半島地震の教訓が盛り込まれ、今年(2026年)の改訂が予定されています。
ガイドライン改訂3つのポイント
災害対策の基本は、過去の被災地で起きた現実の検証に基づくべきです。
一般論や机上の空論は、実際の現場では到底通用しません。 今回の改訂概要に示された内容は、過去の被災地で繰り返されてきた混乱を断ち切るための一歩と言えます。
誰一人取り残さない安心を実現するには、実態に即した方針のアップデートが不可欠です。
今回の大きなポイントは以下の3つです。
1.部局間の連携強化で「同行避難」を促進
2.避難所での人とペットの「住み分け」の具体例を解説
3.同行避難を基本としつつ、在宅避難など他の選択肢(分散避難)も示す
ここからは、特に重要な2つのポイントについて1つずつ解説します。
【ポイント1】部局間の連携強化で「同行避難」を促進
これまで同行避難の体制づくりが遅れていた大きな原因は、実務を担う部署同士の足並みが揃っていなかったことにあります。
まず、役割のミスマッチが存在しました。
災害時のペットに関する問題は動物愛護担当部署が担当します。
しかし、実際の避難所開設や危機管理の権限を持つのは防災担当部局というズレが生じていたのです。
これにより計画の形骸化が起きていました。
自治体が公式に「同行避難を認めます」と宣言していても、部署間での密な連携がないため、現場での対応に落とし込めていなかったわけです。
避難所を管理する防災部局がペット同行避難に積極的に関与していなかったため、「同行避難を認める」と言いながら、実際の受け入れ場所や受け入れ可否の判断は、すべて避難所運営者に丸投げされていました。
任された側の避難所運営者は、国のガイドラインの意味合いをよく理解していないまま、判断を迫られていたのが実態です。
このような状態では、同行避難の受け入れ体制が具体化するはずもありません。
そのような状況下では、災害時の混乱も相まって、避難所運営者の方々が被災者支援の観点からペット同行避難を適切に受け入れるのが困難であったのは、当然のことでした。
当法人も複数の自治体の協議会や講演の中で、危機管理部局と動物担当部局との密な連携の必要性について訴え続けてきました。
防災部局の積極的な関与や決定権の行使がなければ、どれだけ同行避難の重要性を訴えても実効性のある対策は進みません。
NPO法人ペット防災ネットワークは自治体の協議会やセミナーを通じて、これまで災害時のペット支援体制構築を訴え続けてきました。 その活動の軌跡は「活動の実績」ページでご覧いただけます。
防災部局が関与することで期待される「具体的な変化」
今回の改訂案により、防災部局が本格的に関与することで、対策を方針から実効性のある計画へ変える指針が示されています。
動物担当部署だけでは不可能だった実務について、防災部局が持つ決定権とリソースを活用すれば、以下のように具体化する可能性があります。
1つ目は、ペット専用スペースの確保です。 従来は動物担当に避難所内の管理権限がないため場所を作れませんでしたが、今後はペット受け入れスペースの確保を自治体全体の避難所運営計画にしっかりと組み込むことが期待されます。
2つ目は、資機材や物資の供給ルートの確立です。 従来は動物担当単独での調達や備蓄、搬送ルートの確保は困難でした。 今後は避難所の全体的な物資供給ルートの一環として、ペット用品もシステム化される可能性です。
3つ目は、平時からのデータ連携です。 従来は地域のペット飼育状況を防災に直結させることができませんでした。
今後は「飼養頭数と受入れ可能頭数」の情報共有を両部局で事前に行い、計画的な管理が可能となります。
一言で言えば、口約束だった同行避難を、自治体の公式な防災システムとして機能させる仕組みが描かれています。
平時から両部局が連携し、お互いの情報や権限を掛け合わせることで、災害時の受け入れ拒否といった現場のトラブルを未然に防ぐ体制づくりが求められています。
実質的なペット防災を進める上で、この縦割りの行政システムこそが、これまでの大きな課題でした。
【ポイント2】避難所ごとの「住み分け(ゾーニング)」
2つ目のポイントである避難所内での「住み分け」についても、当法人が長年訴え続けてきたテーマです。
避難所には、動物との暮らしが苦手な方や、重い動物アレルギーを持つ方も避難してきます。
そのため、人の居住区と動物の動線を明確に分ける「ゾーニング」が不可欠な要素と言えるでしょう。
このゾーニングという手法は、双方のストレスを軽減し、避難所での無用なトラブルを防ぐ上で非常に有効です。
実際に熊本地震の現場では、熊本市総合体育館において、ペット飼育者と他の被災者との動線を完全に分離しました。
これにより、避難所が閉鎖されるまでの間、トラブルのない屋内同伴避難を成功させています。
また、他の避難所においても、学校の技術室などを同行避難した被災者に専用スペースとして開放することで、屋内同伴避難が成功した実例があります。
今回のガイドライン案では、避難所での人とペットの住み分けについて、避難者数や施設の状況に応じた検討を求めています。
熊本地震での成功事例が示すように、施設の構造を活かした動線の分離や空間の確保など、現場の実情に合わせた柔軟で確実なゾーニングの実施が重要になります。
※熊本地震 熊本市総合体育館のゾーニング 体育館の裏玄関ロビーにペット同行避難受け入れスペースを設置し、動線を完全分離。

画一的ではない「それぞれの避難所」に合わせたルールを
ここで重要なのは、学校の体育館、公民館、あるいはテントなど、避難所によって規模や環境が全く異なるという点です。
すべてに当てはまる画一的なゾーニング基準を設けることは不可能に近いでしょう。
それぞれの避難所の実情に合わせた具体的なルール作りが求められます。
その際、避難所運営者だけで判断するのではなく、動物担当部署や獣医師会といった専門家によるアドバイスを取り入れることが重要です。
実際の取り組みとして、当法人の副理事長が獣医師会会長を務める大阪府堺市の事例があります。
堺市では、動物指導センター職員、堺市獣医師会、危機管理室、さらには教育委員会も参加する「動物救護活動連絡会」が立ち上がりました。
避難所運営マニュアルを改訂する際には、危機管理課と動物指導センターの職員が施設管理者向けに説明を行うにとどまらず、各小学校、中学校、高校へと直接赴きました。
郵便やFAXでの通達で済ませるのではなく、実際に戸別訪問まで行って屋内避難の必要性を丁寧に説明し、各学校での屋内避難スペースの確保を取りつけたのです。
その際、ゾーニングの観点から動物担当部署や獣医師会といった専門家によるアドバイスが行われています。
1校1校を直接回る戸別訪問まで行うのは、労力と時間を要する大変な作業です。
しかし、このように、危機管理課、動物担当部署、獣医師会、そして教育委員会がしっかりと連携して現場を動かすことこそが、避難所での受け入れ体制を具体化するためには不可欠です。
そして何より、災害が起きてから考えるのではなく、事前に受け入れ場所や受け入れ方法を明確にしておくことが、混乱を防ぐ有効な手段となります。
自治体の部署間だけではなく、学校関係者、教育委員会、獣医師会など関係者間との密な連携が重要になります。
地域で頼られるペット防災の知識を学びたい方へ。実際の現場で役立つスキルを身につけるための講座情報を、こちらの「ペット防災セミナーページ」で公開しています。
【結論】制度の具体化を注視する
今回のガイドライン改訂案により、これまでペット防災における長年の課題とされてきた「部局間連携」や「ゾーニング」といった要素が前に進む方向性が示されました。
先述した大阪府堺市のように、関係各所が密に連携し、1校1校への戸別訪問まで行って屋内避難スペースを具体的に確保したような動きは、まさに目指すべき姿です。
しかし、堺市のような具体的な取り組みの背景には、関係者の長年にわたる地道な努力があり、決してそう簡単にできることではありません。
それでも、これ以上先送りにすることは許されません。
今回の改訂案で触れられている内容の多くは、過去の災害からすでに明確な課題として長年指摘され続けてきたことだからです。
だからこそ、自治体の関係者は今回の改定を単なる通知として受け取るべきではありません。
修正に至った背景や過去の教訓にまでしっかりと目を向け、今度こそそれぞれの現場で1つ1つ具体化していく必要があります。
国が指針を示したとしても、それが各自治体の地域防災計画に落とし込まれ、どこまで現場で具体化されていくのかは、厳しく注視していかなければなりません。
なお、もう1つのポイントである「分散避難」については、危惧する点が大いにあるため、別記事で詳しく触れます。
NPO法人ペット防災ネットワーク 理事長 冨士岡 剛






















