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【ペット防災の重要課題】避難所の「ペット受入情報」の情報公開

はじめに:災害時、ペットとどこへ逃げますか?

「いざという時、この子と一緒に避難所へ行けるだろうか?」

ペットと暮らす多くの方が、一度はこんな不安を抱いたことがあるのではないでしょうか。衝撃的なデータがあります。実は、ペット飼い主の約8割が、最寄りの指定避難所がペットを受け入れてくれるかどうかを知らないのです。

国は「同行避難」を原則としていますが、多くの自治体で事前の情報公開は進んでいません。なぜ、これほど重要な情報が私たち飼い主に届かないのでしょうか?

この記事では、その背景にある複雑な問題と、すべての命を守るための解決策、そして私たち飼い主が今すぐ始めるべき「自助」の取り組みについて、専門的な報告書の内容を基に分かりやすく解説します。

1. なぜ情報は届かない?自治体と飼い主の深刻な「断絶」

災害時の混乱の根本原因は、行政が持つ情報と、私たち市民が持つ情報の間に大きな格差がある「情報の非対称性」にあります。

自治体の準備状況はバラバラ
全国の自治体で、ペット同行避難への備えは一様ではありません。避難所運営マニュアルにペット対策を記載している自治体は約半数ですが、その内容は「配慮する」という一文のみの場合も。具体的な受入可否をウェブサイトで公表している自治体は、ごく僅かなのが現状です。これにより、住んでいる場所によって受けられる支援が異なる「防災格差」が生まれています。

飼い主の8割が「知らない」、それでも「連れて逃げる」
一方で、飼い主の約8割は最寄りの避難所の体制を知りません。しかし、情報が不明な場合でも**83%の飼い主が「まずはペットと一緒に避難する」**と回答しています。「ペットは家族だから」という当然の想いからです。

この「知らないまま避難所へ向かう飼い主」と「準備ができていない避難所」が災害発生時に鉢合わせすることで、避難所の入口で大混乱が発生します。受け入れを拒否された飼い主が、危険な車中泊を選んだり、倒壊の恐れがある自宅に戻ったりする二次災害のリスクにも繋がるのです。

2. なぜ自治体は情報公開できていないのか?

自治体が情報公開に踏み切れないのには、避難所運営の現場が抱える、現実的な3つの課題があります。

① 社会的な課題:避難者間のトラブル
避難所は極度のストレス下にある人々が共同生活を送る場所です。アレルギーや健康問題:動物アレルギーを持つ方への配慮は不可欠です。
鳴き声や臭い、衛生問題:ペットも非日常の環境でストレスを感じ、吠えたり粗相をしたりすることがあり、他の避難者とのトラブルの原因になり得ます。
動物への恐怖心:動物が苦手な方への配慮も必要です。
② 資源的な課題:スペース・人・モノの不足
空間の制約:多くの避難所は学校の体育館などで、動物用のスペースは想定されていません。
人員と専門知識の不足:避難所スタッフは動物管理の専門家ではなく、人命救助や生活支援で手一杯なのが実情です。
費用の問題:ケージや衛生用品など、追加で発生するコストを誰が負担するのか、明確な基準がありません。
③ 「計画の欠如」が生む悪循環
これらの課題を前に、自治体は「ペットを受け入れると問題が噴出する」と考え、明確な方針決定や情報公開を躊躇してしまいます。しかし、問題の本質はペットの存在そのものではなく、この予測可能な事態に対する「計画の欠如」にあります。事前の計画がないために現場が混乱し、その混乱が「やはりペット対応は難しい」という認識を強化する悪循環に陥っているのです。

 3. 解決策はある!国内外の先進的なアプローチ

この困難な課題は、決して乗り越えられない壁ではありません。国内外の先進的な取り組みが、解決への道筋を示しています。

【国内事例】情報の透明化とルールの明確化
東京都港区:公式ウェブサイトでペット受入可能な避難施設を一覧で公開。住民が事前に避難計画を立てやすくしています。
さいたま市:詳細なマニュアルを公開し、避難所で「飼い主会」を組織。飼い主が主体となって世話や清掃を行う自主運営の仕組みを取り入れています。
新潟市:官民連携が進んでいる新潟市では指定避難所におけるペットの受け入れの可否を指定避難所 施設形態等一覧の中で公開している。
【海外事例】国の強力なリーダーシップ
アメリカ「PETS法」:ハリケーン・カトリーナの教訓から制定。州や自治体がペット避難計画を策定しないと、連邦政府からの災害関連の財政支援を受けられないという強力なインセンティブを導入しました。
ドイツ「動物保護法」:動物の保護を国家の目標として憲法に明記。災害時のペット保護も、行政が当然果たすべき責務と位置づけられています。
これらの事例は、明確なルール設定、ゾーニング(空間分離)、官民連携、そして国レベルでの法整備によって、課題が克服可能であることを示しています。

まとめ:ペット支援は「被災者支援」である

なぜ、これほどまでにペットとの同行避難は進まないのでしょうか。スペースやアレルギーの問題など、課題は山積しています。しかし、全ての遅れの根源にあるのは、災害時のペット支援が「動物愛護」の枠組みでしか語られず、「被災者支援」という危機管理の視点が決定的に欠けているという、極めて重大な認識の欠如です。

ペットを救うことは、飼い主である「被災者」の命と尊厳を守ることに直結します。受け入れ先がないために危険な自宅へ戻る、車中泊で体調を崩すといった二次災害は、ペットと飼い主を引き離すことで発生する人災に他なりません。

この悪循環を断ち切り、すべての命を守る社会を実現するため、私たちは以下の具体的な方策を強く提案します。

国は、防災基本計画の実効性を担保する措置を講じること
国の防災基本計画には、既に「被災者支援の観点からの災害時のペットの受け入れ体制の構築」が明記されています。しかし、その指針が多くの自治体の地域防災計画に具体的に反映されていないのが現状です。国は、この計画が絵に描いた餅とならないよう、自治体への財政的支援や専門家の派遣、そして計画策定を促すための具体的なガイドラインを示すなど、実効性を担保する責任を果たすべきです。

自治体は、国の指針に基づき、地域防災計画を早急に見直すこと
国の計画に基づき、ペット同行避-難が可能な避難所のリスト化と平時からの公表を義務とし、その運営に必要な予算と人員を具体的に計画に盛り込むべきです。机上の空論で終わらせず、現場で機能する実質的な体制構築が急務です。

実効性のある法整備を進めること
米国の「PETS法」のように、自治体がペットを含めた避難計画を策定することを、国の防災関連支援の前提条件とするなど、実効性のある法整備やインセンティブ導入が、国レベルでの迅速な対策を促進します。

社会全体の意識を変革すること
この問題は、ペットを飼っている人だけの問題ではありません。地域コミュニティ、企業、そして私たち一人ひとりが「ペット支援は被災者支援である」という共通認識を持ち、飼い主もそうでない人も共に協力できる社会を目指す必要があります。

私たちNPO法人ペット防災ネットワークは、この認識の変革を社会に訴え続けます。そして、飼い主の皆様が具体的な「自助」のスキルを身につけ、どんな時でも自分と愛する家族の命を守れるよう、実践的な知識と技術をお伝えするセミナーを定期的に開催しています。

情報を待ち、誰かに助けてもらうのを期待するだけでは、命は守れません。正しい知識で備え、行動すること。それが、あなたとペットの未来を切り拓く唯一の道です。

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