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ペット防災コラム

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2026年ガイドライン改訂分散避難の課題

今年改訂される環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」において、分散避難者への支援方針が新たに明記されました。

国や自治体は現在、災害時の指定避難所における過密化を防ぐ対策として、分散避難を推奨しています。
分散避難とは、小中学校や公民館などの指定避難所へ向かうことだけを避難と捉えず、多様な場所へ避難する行動を指します。
具体的には、安全な親戚・知人宅や宿泊施設への立退き避難、自宅の安全が確保できる場合の在宅避難(屋内安全確保)、そして車中泊などがこれに該当する行動です。

ペット防災の観点からも、この分散避難への対応は課題となっています。
指定避難所への避難をためらう飼い主にとって、在宅避難や車中泊は他の避難者との摩擦を避けるためのやむを得ない選択となっているためです。
実際、災害時に車中泊を選択する理由の1位としてペットの存在が挙げられている事実があります。

また車中泊だけでなく、熊本地震で同行避難の支援にあたった現場においても、しつけが十分に行き届いているにも関わらず、特に大型犬の飼い主は他の被災者への配慮から避難所へ行かずに在宅避難を選択するケースが数多くありました。
行政が推奨する分散避難の形と、ペット飼育者が選ぶ避難行動が重なり合う中で、指定避難所以外に留まる被災者の安全確保と支援の手立てが急務となりました。 

分散避難と環境省ガイドラインの新たな指針

こうした背景を受け、今年改訂される環境省のガイドライン案では、分散避難者への対応方針が新たに明記されました。
改訂案では、在宅避難者の状況を把握した上で、物資の配分や告知の方法などを工夫し、指定避難所での対応との間に違いが生じないように配慮することが求められています。
また、車中泊やテントの中での飼養に関しても、必要に応じて指定避難所などで支援物資や情報を入手するよう呼びかける内容が盛り込まれました。

国が在宅避難や車中泊を公的支援の対象として明確に位置づけたことは、被災者支援の枠組みにおける前進と言えます。
ペットとともに車中泊や在宅避難を続ける被災者が情報から孤立するリスクを減らし、適切な物資を届けるための方向性が示された形です。

しかし、方針をマニュアルの文言として記載するだけで現場が動くわけではありません。
ガイドラインが示す「状況を把握した上での配慮」を実現するためには、自治体側が分散避難者を正確に見つけ出し、情報を管理する仕組みを平時から構築しておく必要があります。
誰がどこに避難しているのかという基礎的なデータがなければ、支援の手を差し伸べることは不可能です。点在する被災者に対して、どこで支援物資やサポートを受け取れるかといった必要な情報を確実に届けるための伝達ルートを事前に設計しておく対応が求められます。国の方針を現実の支援に結びつけるためには、それぞれの自治体が地域の実情に合わせた運用手順を具体化する作業が不可欠となります。

公的支援体制の現状と課題

しかし現状では、ガイドラインで新たな方針が示された一方で、現場の受け入れ体制が追いついていないのが実態です。
この支援体制の遅れは、内閣府が実施した令和6年のアンケート調査のデータに明確に表れています。

全国の市区町村を対象としたこの調査によると、災害時における車中泊避難者の支援の必要性を認識している自治体は約76%に上りました。プライバシーの確保や、指定避難所だけでは住民を受け入れきれない可能性に加え、ペット同伴を理由とした車中泊の増加も、自治体が懸念する要素として認識されるようになりました。

その一方で、平時から車中泊避難者の支援に向けた具体的な取り組みを行っている自治体は31%にとどまっています。
さらに注視すべきは、過去10年以内に災害救助法が適用された被災経験のある市区町村であっても、実際に車中泊避難者への支援を実施した自治体はわずか16%という結果が出ている点です。
在宅避難者支援の取り組みが進まない要因としては、自治体における人員不足やノウハウ不足、法制度上の位置づけの曖昧さが指摘されました。行政の対応体制の整備は追いついておらず、在宅避難や車中泊を選択した被災者の数や所在を正確に把握する仕組みは、全国の自治体にほとんど存在しないのが現状です。

内閣府の調査においても、在宅避難や車中泊避難者の状況把握の方法について「決まったものはない」と回答した市区町村が7割を超えました。
自治体側に飼い主の動向を把握する仕組みがない以上、指定避難所側が状況を把握して配慮を行うというガイドラインの前提自体が破綻します。
誰がどこにいるか分からない状態では、どこで物資を受け取れるかという案内すら届けることは不可能です。結果として、支援に関する情報ルートから飼い主が取り残され、必要な物資を受け取れない空白地帯が生まれるリスクが高まります。

支援の必要性は認識しているものの、実際の具体的な取り組みが遅れているという事実こそが、現在の公的支援体制が抱える根本的な課題と言えます。この課題を放置したままでは、分散避難者の安全を確保することは困難です。

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形骸化を防ぐための具体的な対応策と仕組みづくり

ガイドラインに配慮の内容が記載されていても、現場の仕組みが未整備であれば機能しません。形だけのペット支援体制を作るのではなく、実効性のある被災者支援を行うために、今取り組むべき対応策を提示します。

情報把握のための仕組みづくり

発災初期に分散避難者の所在を特定するため、指定避難所の受付手順を再構築します。
受付窓口に避難者カードを配備し、指定避難所に滞在しない人にも避難先を申告させる体制を整える手順が求められます。
カードの選択肢に「自宅(在宅避難)」や「車中泊」の項目を設け、ペットの有無、種類、頭数を漏れなく記入させる運用が不可欠です。
また、こうした紙のカードによる受付に加え、スマートフォンで利用できる防災アプリなどを活用し、分散避難者がオンラインで自身の状況を登録できる仕組みを検討しておく対応も有効に機能します。
発災時にこれらの情報をデータとして一元管理できれば、避難所の建物外にいる飼い主の数と所在を自治体が把握する最初の足がかりとなります。データがあることで、地域全体で必要な物資の量や種類を正確に予測し、情報伝達や物資拠点の運営といった適切な支援計画を立てることが可能になります。

車中泊専用スペース事前指定とルール策定

車中泊避難者を対象とした支援を効率化するためには、ペット同伴の車中泊専用スペースを平時から事前に指定しておく方法が有効に機能します。
地域の公園や大規模な駐車場などをあらかじめ選定し、災害時の利用について関係部署と協定を結ぶ手順が求められます。
この取り組みにより、自治体はペット同伴で車中泊をしている被災者を特定の場所に集約する環境を整えられます。
点在する車中泊避難者を探し回る労力が省かれ、対象者の把握や支援物資の配布、健康状態の確認が一括して行える環境が構築されます。

スペースの確保にあたっては、地震や風水害など災害のタイプによって場所を考慮する必要があります。
屋外の公園は地震の際の避難場所としては機能しても、強風による飛来物や倒木の危険がある台風には不向きです。
水害が想定される地域では高台の駐車場を指定するなど、災害種別に応じた具体例を平時から複数想定しておく対応が求められます。
導入にあたっては、ゴミの処理や夜間のエンジン音、排泄物の管理といった使用ルールを事前に策定し、周知徹底を図っておくことが運用の条件となります。事前にルールの徹底を図ることで、近隣住民とのトラブルを防ぎ、衛生的な環境を維持できます。

物資支援と連動した情報収集と周知

在宅避難や車中泊を続ける飼い主に対して、必要なペットフードや生活物資を指定避難所へ自ら取りに来るよう事前に周知します。
ここの周知の方法が大きく工夫が必要な部分と言えます。

自治体のホームページに載せるだけでは効果はほとんど期待できません。

いかに飼い主へ情報を届けるかが問われる課題です。
市政だよりなどの全戸配布の紙媒体や、自治体の公式LINEなどのSNSを活用し、さらに地域のペット防災セミナーや地域のイベントなどを通じた直接的な呼びかけも含め、多様なアプローチで情報を届ける仕組みを平時から構築します。

物資引き渡しの際は対面での状況確認を行うことが重要です。物資の配布窓口を単なる配給所ではなく、情報の結節点として機能させることがポイントです。
物資を取りに来る飼い主の状況を聴き取り、そこで得られた情報を基に、保健所職員やボランティアによる重点的な巡回ルートを策定する手順を取り入れます。
この手順を踏むことで、孤立しがちな分散避難者へ健康相談などの医療支援を的確に届けられます。

 過去の教訓が突きつける課題

ガイドラインの改定への対応は、いかにその方針に沿って平時に具体的な対策を講じておくかに懸かっています。
今回の改訂案では、分散避難への対応以外にも、大きな柱として「防災部局と動物担当部局の連携」や「獣医師会等の関係団体との連携」が打ち出されました。
この連携の重要性については、令和6年の能登半島地震検証報告書においても、健康福祉部と危機管理部局との間での連携課題や、情報共有の不足によって対応に支障が生じたことが指摘されています。さらに、県獣医師会との連携が必要であることも課題として挙げられました。

しかし、これらの連携に関する対応策は、すでに過去の資料において繰り返し提示されていた事項です。

平成30年発行のガイドラインでは情報窓口の一元化と連絡体制の整備が求められ、令和2年発行の通達でも協働システムの構築や獣医師会等との連携が市町村の努力義務とされました。
令和3年発行のチェックリストにおいても、部局間連携や関係団体との連携体制について具体的な確認項目が設けられています。

過去の指針で再三提示されていた対応策が、なぜ今になって再び課題として報告されているのでしょうか。それは、国が示した方針をそれぞれの自治体が現場レベルの実務として具体化し、実装する作業が滞っていたためです。方針が提示されていても、それが実際に動くように具体化されていなければ、現場では意味を持ちません。

今回のテーマである分散避難への対応についても、全く同じ構造が当てはまります。

ガイドラインに方針が明記されたからといって、それをただマニュアルに書き写すだけでは意味がありません。
令和6年のアンケート調査が示す通り、必要性を認識しながらも具体的な取り組みが遅れているのが現状です。
分散避難者の状況を把握する登録システムや、情報を的確に届ける伝達手段といった具体的な仕組みを平時のうちに構築しておかなければなりません。

マニュアルだけを策定しても、それが実際に機能しなければまた同じ課題として残されることになります。
そのマニュアルが実際に被災地の現場で、被災者支援に繋がるためのマニュアルとなるように、行政の実務的な枠組みづくりが平時からどこまで進められるかが問われています。

当法人では熊本地震などの被災地支援で培った経験と、環境省との協働プロジェクトの実績をもとに、実践的な講演を行っています。
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