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【ペット防災コラム】地域と行政を繋ぐハブになる 動物取扱事業者

前編では、事業者が日常業務の中でできる「飼い主への啓発」についてお話ししました。後編では、平時の取り組みの残り2つの柱である「コミュニティ作り」と「自治体との連携」について解説します。

コミュニティという「最強の防災備蓄」

平時の取り組みの2つ目は、「飼い主のコミュニティ作り」です。

災害時、水やフードの備蓄はもちろん大切です。しかし、モノはいつか必ず尽きます。極限状態で最後に人を救うのは、やはり「人」です。 特にペットを飼っている者同士の繋がりは、災害時に強力なセーフティネットになります。

例えば、ある飼い主さんが被災して怪我を負い、入院しなければならなくなったとします。誰が残されたペットの世話をするのでしょうか。親戚が遠方にいれば頼ることはできません。 そんな時、普段からドッグランやサロンで顔を合わせている「犬友(いぬとも)」や「猫友(ねことも)」がいれば、「〇〇さんが戻るまで、うちで預かるよ」と声をかけ合うことができます。 避難所生活で肩身の狭い思いをしている時も、仲間がいれば「交代で散歩に行こう」「私がトイレ掃除をしておくから、あなたは休んで」と助け合うことができます。

この「共助」の力こそが、被災後の過酷な環境を生き抜くための生命線となるのです。

事業者が「地域のハブ」になる

しかし、現代社会では近所付き合いが希薄になり、こうした自然発生的なコミュニティは作りにくくなっています。そこで、事業者の皆様の出番です。 皆様の店舗や施設を、単に商品を売る場所ではなく、「飼い主同士が繋がるハブ(拠点)」にしてください。

サロン主催の「お散歩会」や「パピーパーティー」で顔合わせの場を作る。
店内に「お客様掲示板」を設置し、地域情報の交換の場を提供する。
防災セミナーやワークショップを企画し、意識の高い飼い主同士を引き合わせる。
こうして皆様が仕掛け人となって、お客様同士を「横」に繋げておく。この「顔の見える関係」を作っておくことこそが、地域防災力を高める最強の備蓄になります。 いざという時、皆様が中心となって声をかければ、そのコミュニティはそのまま「互助組織」として機能し始めます。これは行政には絶対にできない、地域に根差した民間事業者ならではの防災対策です。

「信頼」こそが、事業を永続させる

経営者としての視点も付け加えさせてください。 こうしたコミュニティ作りや防災啓発は、決して「利益にならないボランティア活動」ではありません。むしろ、「信頼される事業者」となり、皆様の事業を強く太くするための、最も確実な投資です。

お客様は見ています。 ただ商品を売るだけのお店と、「私たちとペットの命を本気で守ろうとしてくれているお店」。どちらを信頼し、どちらに通い続けたいと思うでしょうか。 皆様がハブとなってコミュニティを作ることで、お客様との関係は「店と客」というドライな関係から、「地域で共に生きるパートナー」という深い絆へと変わります。 平時に飼い主さんの命と暮らしを守る努力をすることは、巡り巡って、災害後も皆様のビジネスが地域で愛され、必要とされ続けることに直結するのです。

自治体との連携が不可欠 —— 「勝手な支援」は混乱を招く

平時の取り組み、最後にして最大のテーマが、「自治体との連携(協定)」です。 少し厳しい表現になるかもしれませんが、支援活動の核心部分ですので、ぜひ心に留めてください。

災害が起きると、多くの心ある事業者さんが「何か助けたい」と立ち上がってくれます。その善意自体は非常に尊いものです。 しかし、事前の取り決めなしに行われる「勝手な支援」は、現場に大混乱を招き、かえって迷惑になることが多々あります。これを**「支援公害」**と呼ぶことさえあります。

なぜでしょうか。 避難所には、行政が定めた物資の搬入ルートや管理ルールがあります。そこへ事前連絡もなく大量のペットフードが届いたら、現場は「どこに置くのか」「誰が管理するのか」とパニックになります。 また、個人でペットを一時預かりした場合、その後の所有権トラブルや感染症の拡大など、二次的な問題が発生しても行政は介入できません。 結果として、善意で動いたはずが、復興の足を引っ張ってしまうのです。

「災害対策全体の枠組み」に入るということ

ペットの災害対策は、独立した活動ではありません。人命救助、避難所運営、物資輸送、防疫……これら全ての「災害対策全体の枠組み」の一部として組み込まれて、初めて機能します。

だからこそ、平時のうちに自治体と「災害時応援協定」を結んでおくことが絶対条件なのです。

「災害時、この施設をペットの一時預かり所として提供します」
「必要があれば、トレーナーを避難所に派遣します」
「支援物資は、行政の指定する集積所に届けます」
こうした約束事を、平時のうちに文書として行政と交わしておく。 そうすれば、発災時、行政は「あそこの事業者さんに頼めばいい」とすぐに判断でき、皆様も行政の公認を得て堂々と支援に入ることができます。警察や自衛隊の検問を通過して被災地に入れるのも、行政との協定がある車両に限られるケースも少なくありません。

行政の方々は動物のプロではありません。だからこそ、皆様の力を求めています。 しかし、彼らが求めているのは「勝手に動くボランティア」ではなく、「指揮命令系統の中で、組織的に動いてくれるパートナー」なのです。

結び:平時の「点」を、災害時の「線」にするために

今回、前編・後編にわたり、動物取扱事業者にできることについて、「啓発」「コミュニティ」「行政連携」の3つの視点でお話ししました。

これらは全て、明日からすぐに始められることです。 特別な予算も、設備もいりません。必要なのは、皆様の「プロとしての意識」だけです。

お客様への一言が、飼い主の意識を変えます。 お客様同士の繋がりが、地域の絆を強くします。 そして行政との握手が、災害時の強固なセーフティネットを作ります。

平時の取り組みこそが、命を救う。 ぜひ、できることから一歩を踏み出してください。

NPO法人ペット防災ネットワークでは過去の豊富な経験をもとにペット防災のアドバイスや認証制度も行っています。

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