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ペット防災コラム

コラム

私たちが目指す社会『ペット防災 みんなの安心』

はじめに:「ペット防災 みんなの安心」に込めた、私たちの想い

「ペット防災 みんなの安心」

これは、私たちNPO法人ペット防災ネットワークが活動の指針として掲げるキャッチフレーズです。

この短い言葉には、災害時におけるペットの安全対策が、単に飼い主と愛するペットの命を守るためだけのものではない、という私たちの強い信念が込められています。ペットと飼い主が安心して過ごせる環境は、避難所で共に生活することになる他の被災者の方々、そして避難所を不眠不休で運営する自治体職員や地域の方々の負担を軽減し、最終的には地域社会全体の平穏と安心に繋がっていく。私たちはそう固く信じています。

災害という極限状態において、「ペット」という存在が社会の分断や対立の原因となるのではなく、むしろ人と人との繋がりを支え、困難な状況を乗り越えるための希望の光となる。そんな社会の実現こそが、私たちの活動が目指す最終的なゴールです。

このコラムでは、私たちのこの想いが生まれた原点である熊本地震での経験と、日本のペット防災が抱える課題、そして私たちがその解決のために取り組んでいる「ペット防災セミナー」をはじめとする具体的な活動についてお話しします。

活動の原点:平成28年熊本地震

私たちの活動の原点は、平成28年4月に発生した熊本地震での長期にわたるペット同行避難支援活動にあります。本震、そして絶え間なく続く余震に怯える中、指定された避難所はどこも混乱を極めていました。そこで私たちが目の当たりにしたのは、あまりにも過酷な状況に置かれたペットと飼い主の姿でした。

「同行避難」の理想と、混乱を極めた避難所の実情

住み慣れた家を失い、見知らぬ人々や物音で溢れる避難所の片隅で、恐怖に震える犬や猫たち。その不安を敏感に感じ取り、日に日に憔悴していく飼い主さん。環境の変化によるストレスから吠え続けてしまう犬、恐怖で排泄ができなくなってしまう猫。鳴き声や臭いが周囲の迷惑になることを恐れ、避難所に行かず、車中泊を余儀なくされるご家族も少なくありませんでした。

エコノミークラス症候群のリスクに晒されながら、心身ともに疲弊していく飼い主さん。周囲に迷惑をかけたくないという一心で、自分たちに配給された貴重な食料や水をペットに分け与え、社会から孤立していくご家族もいました。それは、単に「ペットを連れている」というだけで、多くの支援の輪からこぼれ落ちてしまう現実でした。

飼い主、ペット、そして受け入れ側の三重苦

しかし、これはペットと飼い主だけの問題ではありませんでした。私たちが目の当たりにしたのは、事前の取り決めや具体的なマニュアルが何一つない未曾有の事態の中で、何とかしてペットと飼い主を受け入れようと、大変な苦労と創意工夫を重ねて奮闘してくださった避難所運営者の方々の姿です。

人とペットが共に安全な場所へ避難する「同行避難」。その重要性は国からも示されてはいましたが、実際の災害現場では、受け入れの具体的なルールやゾーニング(区分け)、衛生管理の方法などが全く定められていませんでした。その結果、アレルギーを持つ方や動物が苦手な方への配慮との間で板挟みになり、住民同士のトラブルに心を痛める運営者の方々がいました。

ペットを連れた飼い主も、それを受け入れる避難所も、そして動物が苦手な被災者の方々も、誰もが先の見えない不安の中で、疲弊しきっていたのです。もし、平時から飼い主が正しい知識で備え、自治体が具体的な受け入れ体制を整え、そして避難所を運営する方々と地域住民がそのルールを共有し、理解し合えていたら…。これほどの混乱や苦労、そして悲しい思いは、きっと避けられたはずです。人とペットが共に安心して避難できる環境が、あの時の熊本には決定的に不足していました。

この痛切な教訓こそが、飼い主、行政・自治体、そして避難所を支えるボランティアや地域住民の三者に働きかけることで「みんなの安心」を実現するという、私たちの活動の根幹となっています。あの日の光景は、今も鮮明に私たちの胸に刻まれています。

「二度と繰り返さない」- 支援活動から生まれた誓いと、被災地の温かさ

長期にわたる支援活動の中で、私が何度も感じたのは、あまりにも大きな無力感でした。

「もっと平時から、ペット防災の備えができていれば」 「もっと正しい知識が、社会全体に普及していれば」

そうすれば、多くの飼い主さんが成功できたはずの「同行避難」。現場で不眠不休の対応にあたられた自治体職員の方々や、避難所を運営された方々も、あれほど苦労されることはなかったのではないか。そして何より、飼い主さんと動物たちが直面した過酷な状況を、ほんの少しでも変えることができたのではないか?

その「悔しさ」にも似た思いは、今でも私の胸に深く突き刺さっています。しかし、そんな極限の状況下でも、被災者の方は笑顔を忘れず、互いに声をかけ、支え合いながら復興へと力強く歩んでおられました。その人間の温かさと強さに触れるたび、私の思いはさらに強固なものとなっていきました。

この経験を通じて生まれた「同じ悲劇を、二度と繰り返してはならない」という強い誓い。それこそが、私たちNPO法人ペット防災ネットワークの活動の、決して揺らぐことのない原動力なのです。

なぜペットの災害対策が進まないのか?繰り返される課題の根源

熊本地震から年月が経過し、その後も日本各地では、豪雨、台風、そして地震と、大規模災害が後を絶ちません。しかし、その災害報道に触れるたび、私たちはペットと飼い主を取り巻く状況が、依然として厳しいままであることを痛感させられます。

「同行避難」という言葉だけが広く知られるようになりましたが、その本来の意味や、実現のために最も重要な「事前の備え」についての社会的な理解が、全く追いついていません。その結果、災害現場では避難所での受け入れを巡るトラブルや、周囲への遠慮から孤立を深める飼い主といった、熊本地震で私たちが目の当たりにしたのと全く同様の混乱が、今なお全国で繰り返されているのです。

この問題の根深さは、単なる飼い主個人の意識の問題に留まりません。災害時の対応を担う「行政」、専門的な知見を持つ「獣医師会」、そして実際にペットと暮らす「飼い主」や「地域社会」。これらを繋ぎ、連携を促す「仕組み」そのものが、多くの地域で十分に機能していないことに起因します。

各自治体におけるペット防災への取り組みの温度差、縦割り行政の弊害、そして飼い主としての在り方。これらの構造的な課題を解決しない限り、日本のペット防災は本当の意味で前に進むことはできません。

私たちの使命:過去の教訓を未来へ繋ぐ活動

私たちの使命は、災害が起こるたびに支援に駆けつけることだけではありません。それは、災害に揺るがない社会の基盤を築くことです。

個人の「意識」を、社会の「常識」に。 平時からのケージトレーニングや無駄吠えのしつけといった適正飼育の徹底と、災害時に命を守る防災意識の向上を。全ての飼い主へ、その重要性を啓発し続けます。
組織の「連携」を、地域の「絆」に。 行政や専門機関との協力体制を平時から強固にし、顔の見える関係が、いざという時の助け合いの輪を広げます。
「誰かが助けてくれる」社会から、「誰もが助け合える」社会へ。
過去の災害から得た数々の教訓を全ての活動の礎とし、人とペットの安全が当たり前に守られる未来を、私たちは目指しています。そのために、多角的なアプローチで活動を展開しています。

活動の核となる「ペット防災セミナー」:災害現場の経験を社会の力に

NPO法人ペット防災ネットワークの活動の大きな特徴の一つが、過去の豊富な災害支援経験を基にした、自治体・獣医師会・関係機関向けの専門的な「ペット防災セミナー」の企画・開催です。

私たちのセミナーは、単なる机上論や一般論ではありません。実際の災害現場で何が起こり、何が本当に必要とされるのか。長期にわたる災害支援経験に裏付けされた実践的かつ具体的な内容です。私たちは、そのリアルな知識とノウハウを、地域の防災を担う方々へ提供しています。

セミナーでは、自治体による災害時ペット支援体制構築の具体策、各地域の特性に合わせた避難所でのペット受け入れマニュアルの策定支援、動物が苦手な住民やアレルギーを持つ方々との合意形成プロセスの構築など、極めて実践的な内容を取り扱っています。これらは全て、熊本地震をはじめとする災害現場で「これがあれば、もっと多くの命と暮らしを救えたはずだ」という痛切な思いから生まれたプログラムです。

このペット防災セミナーを通じて、各地域の実情に即した、実効性のある防災体制の構築をサポートすること。それが、私たちの重要な使命です。災害対応の最前線に立つ自治体職員の方々、そして動物医療の専門家である獣医師会の方々に、私たちの経験と知識を共有することで、地域全体の防災力向上に貢献できると信じています。

災害時に“本当に機能する”体制づくり:平時からの「連携」がすべて

大規模災害発生時、ペットと飼い主の命と暮らしを守るためには、行政、獣医師会、そして地域の動物関連事業者などが、それぞれの専門性と役割を深く理解し、有機的に連携する体制が不可欠です。

しかし、その体制は災害が起きてから急に作れるものではありません。平時から顔の見える関係を築き、誰が、いつ、何をするのか、具体的な役割分担や情報共有のルールを定めた体制を構築しておくこと。そして、その計画が本当に機能するのかを検証するための合同防災訓練を繰り返すこと。これこそが、いざという時に本当に“機能する”体制の土台となります。

私たちはペット防災セミナーや個別のコンサルティングを通じて、こうした関係機関の橋渡し役を担い、平時からの連携体制の構築を強く推進しています。災害時に「想定外」をなくし、迅速かつ的確な対応を可能にするための「備え」を、地域の皆さんと共に創り上げていきます。

専門家から地域住民まで広がるペット防災の輪

また、私たちの活動は、行政や獣医師会といった専門家だけを対象にしたものではありません。ペット防災の主役は、ほかでもない、ペットと暮らす飼い主一人ひとりであり、そして同じ地域で暮らす皆さんです。

専門家向けのセミナーと並行して、一般の飼い主さんや地域住民の方々を対象とした防災教室の開催、SNSやウェブサイトを通じた分かりやすい情報発信、啓発活動などにも力を入れています。

特別な知識や経験は必要ありません。「自分のペットと家族を守りたい」という想い、そして「困っている隣人を思いやる」心。それこそが、ペット防災の最も大切な第一歩です。専門家だけでなく、誰もが参加できるペット防災活動。これが私たちの目指す姿です。

ネットワークの力で実現する未来:全国の仲間と共に「みんなの安心」を

「同じことを二度と繰り返さない」という私たちの想いだけでは、あまりにも微力です。しかし、これまでの活動の中で培ってきた全国の専門家や、志を同じくする仲間たちとの信頼関係とネットワークは、私たちの何よりの財産です。

獣医師、動物看護師、ドッグトレーナー、行政職員、そして各地で地道なペット防災活動に取り組むNPOやボランティア団体。多様な専門性を持つ仲間たちと連携し、それぞれの知見を共有することで、より効果的で、より広い範囲での活動が可能となります。

この活動は、私たちだけの力で成し遂げられるものではありません。日本全国に、きっと同じ想いを抱いている仲間がいる。その一人ひとりの小さな力が繋がり、大きな輪となった時、初めて社会は変わると信じています。NPO法人ペット防災ネットワークは、その「輪」の中心となるべく、全国の皆さんと連携し、次に起こる災害で一人も、一頭も悲しい思いをしない社会を共に作り上げていきたいと願っています。

終わりに:この想いが、当たり前になる日まで

過去の被災地での経験を、未来を照らす希望の教訓として繋いでいくこと。それが、私たちの変わらぬ誓いです。

「ペット防災、みんなの安心。」

この言葉が、スローガンではなく、日本の社会の当たり前になるその日まで、私たちは活動を続けます。

一緒に、この活動を支えてください。あなたの支援が、未来への一歩となります。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。 私たちの活動は、熊本地針で経験した「守れたはずの命があった」という悔しさと、被災地の皆様の温かさに支えられ、成り立っています。

しかし、日本のペット防災を取り巻く課題を解決し、社会全体の仕組みを変えていくためには、私たちの力だけでは決して足りません。

もし、私たちの想いに共感し、この活動の必要性を感じていただけたなら、どうか私たちと一緒に、この活動を支援していただけないでしょうか。

「支援」の形は一つではありません。 私たちの活動に関心を持ち、その行方を見守ってくださること。そして、「この活動を支えたい」という皆様の温かい想いが、私たちにとって何よりの力となります。

皆様から寄せられる一つひとつのご支援が、実践的なペット防災セミナーの開催や、子どもたちへの啓発活動といった、未来の命を守るための具体的な活動の土台となります。

私たちは、同じ想いを共有できる仲間と一緒に、この困難な課題に立ち向かっていきたいと強く願っています。

「ペット防災、みんなの安心」が当たり前になる社会を、ぜひ私たちと一緒に創っていきませんか。 あなたのご参加を、心からお待ちしております。

サポーター申し込みはこちら https://petbousai.jp/supporter-application

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