民間主体のペット一時預かりに潜む課題〜支援の実態とリスク〜

近年、災害時において保護団体やペット事業者などの民間主体が独自に「民間によるペット同行避難所」や一時預かりを立ち上げる動きがよく見られるようになりました。公的な指定避難所におけるペット同行避難の受け入れ態勢整備がなかなか進まない現状において、こうした民間の動きは一見すると被災者やペットを救済する素晴らしい取り組みのように映るかもしれません。しかし、これらの活動が自治体との連携を経ずに行われることで、いまだ多くの構造的な課題を抱えており、深刻なトラブルを引き起こすリスクがあることを私たちは強く認識する必要があります。今回は、過去の事例を交えながら、その実態と課題について考えてみたいと思います。

ビジネス化する支援と利益相反の危険性
事前の協定や日頃の関わりがない民間団体のなかには、支援等の名目であっても、実際には自社のPRや集客、利益誘導を目的としているケースもあるため慎重な見極めが必要です。過去の事例を振り返ると、東日本大震災では動物救援を名目に設立された団体に約7億円もの寄付金が集まったものの、支給基準が不透明であり、資金が現場に還元されていないとして寄付者らから賠償訴訟が提起される事態が起きました。災害支援が売名や不透明な資金集めに利用される危うさは、過去の災害事例からもすでに明らかです。
民間による災害支援の中には、残念ながら初めから売名や宣伝を目的としたケースも存在します。象徴的な例として、あるペット防災団体の代表が動物取扱責任者講習で語った内容があります。そこでは「ペットショップなら災害時にペットの避難を受け入れれば新聞に載って話題になり人気もでる。有料でホテルとして利用してもらって飼い主は避難所に行けばいいんですよ」という発言がなされていました。ここからは、本来の目的である被災者支援ではなく、自らの事業の宣伝や利益獲得を優先する実態が鮮明に浮かび上がります。
こうした動機に基づくケースを含め、公的支援の枠外で運営される施設は、その資金を自己資金や一時的な寄付金に依存せざるを得ません。その結果、「話題作り」としての世間の関心が薄れ、資金が集まらなくなった段階で一方的に支援が打ち切られるという、極めて脆い構造を抱えている点に注意が必要です。
さらに環境省の動物愛護部会や国民生活センター等でも、平時の保護活動において保護団体を装った保護動物ビジネス、いわゆる「悪質レスキュー」の存在が再三にわたり注意喚起されています。災害時には、この平時から存在する悪質業者の手口が被災地に入り込みやすくなるという構造的欠陥があるのです。無償預かりを謳って被災動物を集めながら、後に資金難を理由に突如として飼い主へ高額な預かり費用や医療費を請求し、支払えない場合はペットの返還を拒否するといった深刻な金銭トラブルが引き起こされる恐れがあります。被災による混乱状態にあり、藁にも縋る思いの飼い主の弱みにつけ込む利益相反が顕在化する、極めて危険なリスクと言えます。
公的支援や情報からの孤立化
自治体の公的枠組みに入っていない民間ペット避難所や非連携の施設に身を寄せた場合、物資だけでなく「情報」からも隔離されやすくなるという深刻な課題があります。公的な指定避難所とは異なり、自治体が把握していない民間避難所に滞在する飼い主には、行政からの被災者支援制度や生活再建手続き、ペットの公的な一時預かり制度などの重要情報が直接届きにくくなります。環境省のガイドライン改訂に係る課題抽出においても、自治体が同行避難者や自宅避難者等の被災者のペットに関する情報収集が困難であることが明白な課題として挙げられており、公的枠組みを外れた場所にいる飼い主が情報的・物理的に孤立化しやすい現状が指摘されています。
支援物資の偏りとミスマッチも深刻です。令和6年能登半島地震における混乱の実態として、自治体と連携していない施設には行政経由の公的な物資供給が届きませんでした。その結果、SNS等で独自に支援を呼びかけたものの、対象が限定される大型犬用のフードなどが過剰に届く一方で、本当に必要とされるペットシーツなどの衛生用品が枯渇する事態が発生しました。さらに、大量に届いた物資の保管場所や仕分け作業員が不足するといった二次的混乱も招いています。
ルールの曖昧さが招くトラブル
公的なルールの下で動かない民間団体が介入することで、法的な整理がなされないまま深刻な所有権トラブルも発生しています。熊本地震においては、団体が勝手に動き、大阪や東京に犬猫を無断で連れ帰ったという報告が環境省や現地の活動記録に残されており、能登半島地震でも同様の事例が報告されています。また、一部団体が一時預かりの条件として、飼い主と犬を一切面会させないという一方的な方針を打ち出し、被災者に強い精神的苦痛を与える事態も起きました。珠洲市のように自治体連携のもと活動した団体は、半年以上連絡が取れない場合の譲渡承諾などを事前に得ていますが、非連携の施設では預かり期限、免責事項、所有権の移行条件などが曖昧なまま受け入れが行われ、事後のトラブルに直結する危険性が高い状態のまま放置されています。
人員や体制の面でも大きな課題があります。災害対応の専門知識を持たない事業者が話題性のみで受け入れを行った場合、パルボウイルスなどの感染症の蔓延や衛生管理トラブルを引き起こすリスクがあります。また、少数のスタッフで昼夜問わず世話を行うことによる深刻な人手不足から適切な飼養環境が保てず、民間施設自体が「多頭飼育崩壊」状態に陥る危険性も懸念されます。
当法人は過去の災害支援経験の基づいた実践的なペット防災体制の構築をめざしています。長期のペット同行避難支援の検証に基づいた官民共同プロジェクトが内閣府国土強靭化民間の取り組み事例集に掲載されております。
民間避難所に依存する危険性と公的体制への影響
事前の連携が図られておらず、行政の統制下にない一部の業者や団体が独自に支援へ動くことは、被災現場に深刻な混乱をもたらします。
前述したトラブルを招くだけでなく、行政側で被災者とペットの状況が把握できなくなり、本来受けられるはずの公的支援から漏れてしまうリスクが高まるためです。こうした事態を防ぐため、防災基本計画では獣医師会や動物取扱業者等との連携を図り、「公的な枠組み」の中で支援を実施することが基本とされています。
この大原則を踏まえれば、法的・運営的なルールが未整備のまま独自の思惑で動く民間避難所を災害時のペット支援の「軸」に据え、過度に依存することは極めて危険だと言わざるを得ません。
さらに懸念されるのは、こうした民間事業者による独自の動きが、『民間が預かってくれるのであれば、行政は積極的に動かなくてもよい』という誤った認識を誘発しかねないという点です。結果として、防災基本計画にも明記されている「自治体主導のペット受け入れ体制(公的な指定避難所での同行避難体制等)」の具体化や整備推進が、これによってさらに遅延してしまう事態が強く懸念されます。
過去の災害の検証に基づいて、被災者支援としてのペット支援体制を確立するためには、民間のリソースの活用は必要不可欠です。しかしその基本として、必ず行政の統制と明確なルールの下で連携を図る「公的な枠組みの構築」が必要です。民間が抱える課題を正しく認識し、そのリソースを公的な枠組みの中に組み込む事が必要です。そうすることで、社会全体でより確実で公平なペット防災の仕組みを作っていくことができるのです。善意や話題性だけで立ち上げられた無統制な民間避難所への安易な依存は、最終的に被災した飼い主とペットをさらなる苦境へと追い込む危険性があるということを、私たちは決して忘れてはなりません。
当法人では、実際の災害支援経験に基づき、『正しいペット防災の知識』の普及・啓発に努めております。
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