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災害時に試されるのは「ふだんの飼い主の姿」ペット防災の本質

はじめに:あなたのペット防災、本当に万全ですか?

「ペット防災」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?

備蓄フードや水の準備、防災グッズの確認、避難場所のチェックリスト…。もちろん、それらはすべて重要な備えです。しかし、もしそれがペット防災の全てだと思っているとしたら、最も肝心なことを見落としているかもしれません。

災害時にペットをめぐって起こる問題のほとんどは、災害発生によって突如現れるわけではありません。その多くは、平時から潜在的に存在していた課題や、日常の飼い主の意識・行動が、災害という極限状況下で一気に表面化するものなのです。

本当にあなたとペットの命を守る「ペット防災」の本質は、モノの備え以上に、「人との繋がり」の中にあります。そして、その繋がりを築けるかどうかは、「普段のあなた自身」にかかっています。

本記事では、ペット防災の核心ともいえるこのテーマに焦点を当て、日々の何気ない行動が、いかに重要で強力な防災対策となるかを、熊本地震の教訓も交えながら深く掘り下げていきます。

第1章:なぜ、災害時に「普段のあなた」が問われるのか?

災害という非常時において、なぜ見ず知らずの他人との関係性が、これほどまでに重要になるのでしょうか。それは、平時の小さな綻びが、災害時にはペットとあなた自身を追い詰める大きな壁となり得るからです。

普段のあなた自身が、試されるとき

少し想像してみてください。災害が起きて、やっとの思いで避難所に逃げ込んだ時、そこにいるのが「毎朝すれ違うけど挨拶もしない、あの人のあの犬」なのか、それとも「毎朝笑顔であいさつを交わす、ご近所さんのあのワンちゃん」なのか。普通に考えてみてください、それで、周囲の人の反応は大きく変わると思いませんか?

普段から地域社会との繋がりが希薄であったり、ペットに関する基本的なマナーが守られていなかったりすれば、非常時において周囲からの理解や協力を得るのは極めて難しくなるでしょう。災害時に突然「模範的な飼い主」になろうとしても、普段できていない事が災害時にできる訳もありません。

実際に過去の災害では、避難所でのペットに関するトラブルが数多く報告されています。夜通し続く鳴き声、トイレの臭い、抜け毛によるアレルギー問題…。多くの人が心身共に疲弊している状況下では、こうした問題が人間関係の深刻な亀裂を生み、結果として飼い主が避難所にいられなくなるケースすらあったのです。

ペット防災の本質は、災害時だけの一時的な対応ではなく、平時からの飼い主さんの意識と行動、そして地域社会との関係の中に深く根ざしているのです。

第2章:信頼を築くための5つのコミュニケーション術

災害時のセーフティネットとなる地域社会との繋がりは、日々の意識的な行動によって育まれます。ここでは、信頼関係を築くための5つの具体的なアクションをご紹介します。

アクション1:挨拶は基本の「き」
 

すべての関係は、挨拶から始まります。「防災と挨拶に何の関係が?」と思うかもしれませんが、この一言こそが地域社会に信頼の種をまく、最も簡単で効果的な第一歩です。散歩中に出会った方には「こんにちは」と笑顔で声をかけましょう。ペットが少し吠えてしまったら「すみません、驚かせてしまって」と一言添える。こうした小さな気遣いの積み重ねが、あなたとペットの存在を地域に温かく認知してもらい、いざという時の心理的な壁を取り払います。

アクション2:ペットを「うちの子」として紹介する
 

「うちのポチです、いつもお騒がせしています」といったように、ペットの名前を伝え、家族として紹介することで親近感が湧きやすくなります。飼い主が積極的にコミュニケーションをとることで、ペットは単なる「個人の所有物」から、「地域で見守るべき存在」へと変わっていきます。ご近所さんが名前を覚えてくれれば、万が一迷子になった際にも「ポチちゃん見かけたよ」と情報が得やすくなるかもしれません。

アクション3:ペット仲間との繋がりを大切に
 

同じように犬の散歩をしている方とは、積極的に情報交換をしてみましょう。「この辺りで良い動物病院はありますか?」といった会話から始まり、ペットの悩み相談やしつけの情報交換ができる関係になれば、非常に心強い存在です。この繋がりが、災害時には「飼い主コミュニティ」として機能し、安否確認や物資の融通など、助け合いの貴重な基盤となります。

アクション4:地域活動で存在を伝えておく
 

自治会の集まりや地域の清掃活動などに参加した際に、「犬を飼っておりまして、鳴き声などご迷惑をおかけするかもしれませんが、できる限り気をつけておりますので、何かあればお声がけください」と伝えておくだけで、周囲の理解度は格段に変わります。問題が起きた時に話しやすい関係性を、平時から作っておくことが、無用なトラブルを避ける上で非常に重要です。

アクション5:「もしも」の話をしておく
 

特に親しいご近所さんや友人には、「もしもの時、私が動けなかったら、うちの子のことを少し気にかけてもらえると嬉しいです」と、具体的にお願いしておくことも有効です。お互いのペットのかかりつけ医や緊急連絡先を共有しておくことで、地域の「共助」の輪が広がります。これが、後述する熊本地震でも大きな力となった助け合いの第一歩です。

第3章:行動で示す、日々の具体的な「配慮」

コミュニケーションと並行して、日々の生活の中での「周囲への配慮」という具体的な行動が伴ってこそ、信頼は確かなものになります。

あなたは見られている。問われる「配慮」の具体性

散歩ルートと時間の工夫: 人通りが激しい通勤・通学時間帯や、子どもたちが遊ぶ公園のそばなどを避ける、あるいはそうした場所を通る際はリードを最短に持つ、といった配慮は、他者への優しさの表れです。
排泄物の完璧な処理: フンの処理は当然ですが、おしっこをした場所に水をかける飼い主の姿は、見ている人に「この人はきちんと責任感のある人だ」という良い印象を与えます。
リードコントロールの徹底: 伸縮リードは便利な一方、長く伸ばしたままでは咄嗟の時にペットを制御できず、事故の原因になりかねません。人や他の犬とすれ違う際は短くロックするなど、TPOに応じた使い方を徹底しましょう。
集合住宅でのマナー: エレベーターや廊下などの共用部では、ペットを抱きかかえるか、キャリーバッグに入れるのが理想です。この配慮一つが、アレルギーを持つ人や動物が苦手な住民との無用なトラブルを防ぎます。
 

周囲に安心を与える「健康・衛生管理」

清潔な体は、ペットの健康を守るだけでなく、周囲への配慮の基本です。各種ワクチン接種、ノミ・ダニ予防は、他の動物や人への感染症を防ぐ飼い主の最低限の義務です。また、定期的なブラッシングやシャンプーで、臭いや抜け毛を管理することも重要です。
 

第4章:熊本地震の教訓に学ぶ「ご近助」から「共助」へのステップ

2016年の熊本地震では、まさにこの「地域との関係性」が、多くの飼い主とペットの明暗を分けました。

揺れが収まらない不安な夜、車中泊を余儀なくされた飼い主たち。そんな時、「何か食べるものある?」「ワンちゃんのお水、これ使って」と声をかけ、食料や水を分け合ったのは、見知らぬ人ではなく、日頃から顔を合わせていたご近所さんでした。

ある地域では、普段から飼い主同士の交流が盛んで、誰がどんなペットを飼っているかをお互いに把握していました。そのため、安否確認がスムーズに進み、ペットフードが足りなくなった家庭に、ストックのある家庭が分け与えるといった「共助」が自然に生まれたのです。

一方で、日頃から地域との関わりを絶ち、孤立していた飼い主は、情報も支援も届きにくく、精神的にも物理的にも非常に厳しい状況に追い込まれました。

この教訓から私たちが学ぶべきは、「共助」、つまりご近所同士の助け合いの重要性です。平時に築かれた「顔の見える関係」という信頼貯金が、災害という非常時に「助け合い」という形で引き出せるのです。

さらに一歩進んで、近所の飼い主仲間と「災害時にはお互いのペットの様子を見に行こう」「もしもの時は一時的に預かろう」といった具体的な約束をしておく「ペット預かり協定」を結んでおくことも、非常に有効な「共助」の形です。

第5章:いざという時に試される、避難所での行動と心がけ

実際に避難所で生活することになった場合、平時から培ってきた配慮の精神が、具体的な行動として試されます。

避難所のルールを確認する: 自己判断で行動せず、必ず運営スタッフの指示に従いましょう。ペットの飼育が可能な場所(ペットスペース)、排泄場所のルールなどを最初に確認します。
飼育スペースの徹底した衛生管理: 指定された場所でも、常に清潔を保つことを意識しましょう。こまめな清掃は、臭いや虫の発生を防ぎ、周囲への最大の配慮となります。
ペットから目を離さない: 避難所内では、原則としてケージの中から出さないようにします。やむを得ず出す場合も、必ずリードをつけ、絶対に目を離さないでください。
周囲への声かけと情報共有: 周りの方々へ「ご迷惑をおかけします。何かあったらお声がけください」と一言伝えるだけで、無用な誤解や不安を減らすことができます。特にペットが苦手そうな方が近くにいる場合は、ケージの向きを変える、布で覆うなどの配慮をしましょう。
飼い主同士で協力体制を築く: 同じようにペットを連れて避難している飼い主さんたちと、積極的にコミュニケーションをとりましょう。トイレ掃除の当番を決める、お世話の情報を交換する、交代でペットの見守りをするなど、協力し合うことで、飼い主自身の負担も軽減され、より良い飼育環境を維持できます。

 

まとめ:今日から始める、未来への備え

日々の行動を通じて地域社会からの信頼を築くことこそが、あなたと大切なペットの未来を守ります。

その第一歩は、明日から、散歩ですれ違う人に、少し勇気を出して「おはようございます」と笑顔で声をかけてみることです。その一言が、あなたの信頼を育て、地域全体の防災力を高め、何よりあなたとペットの日常をより豊かで安心なものに変えてくれるはずです。

ペットと暮らすということは、その命を預かり、社会の中で共に生きていくという大きな責任を伴います。その責任を、日々の小さな行動の積み重ねで果たしていくこと。今、改めてその意味を深く心に刻み、具体的な一歩を踏み出しましょう。

ペット防災の本質とは災害への特別な備えではなく、普段の日常の延長線上にあります。本当のペット防災とは、あなたが、一緒に暮らす動物の命と真剣に向き合い、あなた自身が地域社会の一員として日々の生活を送ることなのです。

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