しつけは難しい?災害時に本当に役立つ、愛犬との絆を深める暮らし方

「お座り、待て…」愛犬のしつけ正直ハードルが高くないですか?
ペット防災の情報について調べてみると、必ずと言っていいほど目にする「基本的なしつけ」という言葉。「お座り」「伏せ」「待て」「おいで」などを、日頃からできるようにしておきましょう、と書かれています。
しかし、この記事を読んでくださっている飼い主さんの多くが、心の中でこう思っているのではないでしょうか。
「うちの子、落ち着きがないから全部は無理かも…」 「『待て』なんて、数秒できればいい方なのに…」 「ちゃんとできないと、いざという時ダメなのかな…」
そう感じて、しつけの一歩を踏み出すのをためらってしまったり、漠然とした焦りや不安を感じたり、あるいは「うちには関係ない話だ」とページを閉じてしまったり…。私たちの経験上、パンフレットに書かれているような全ての指示を完璧にこなせる家庭犬は、実はそう多くありません。
もし、あなたがそう感じているのなら、どうぞ安心してください。 愛犬に何か特定の動作を教えるその前に、もっともっと大切で、そして何より強力なペット防災に繋がることがあるのです。
「しつけ」の前に、もっと大切な「関係づくり」という土台
私たちが「しつけ」という言葉を聞くと、どうしても犬が人間に従う「訓練」のようなイメージを抱きがちです。しかし、私たちが本当に目指すべきは、一方的な命令で犬を動かすことではありません。
それは、「飼い主さんと愛犬の心が、深く、固く繋がっていること」
この信頼と絆に満ちた「関係性」という土台があって初めて、犬は自ら飼い主さんの声を聞こうという気持ちになります。この土台がないまま、いくら「お座り」と支持をしても、犬の心には届きません。それどころか、うまくいかない焦りから飼い主さんがイライラすることで、愛犬との関係をかえって悪化させてしまう危険すらあるのです。
では、どうすればその「心が繋がった」状態を作れるのでしょうか。 毎日の暮らしの中に、そのヒントはたくさん隠されています。
心が繋がる暮らし方①:「ダメ!」を数えるのをやめて、「イイね!」を探す達人になる
私たちはつい、愛犬にしてほしくない行動ばかりに目が行きがちです。 「そこを噛んじゃダメ!」 「また吠えて、うるさい!」
一日の中で、愛犬を叱る言葉を何回口にしているでしょうか?
でも、少し視点を変えてみてください。一日24時間のうち、愛犬が困った行動をしている時間は、ほんのわずかではないでしょうか。ほとんどの時間は、お気に入りの場所で静かに眠っていたり、おもちゃで一人遊びをしていたり、ただただ、穏やかに「いい子」でいてくれるはずです。
心が繋がる暮らし方の第一歩は、その「当たり前のいい子」でいてくれる姿を見逃さず、たくさん褒めてあげること。
「静かに待ててエラいね」「お留守番ありがとう」「いい子で寝てるね」。
ソファでくつろいでいる時、足元で眠っている時、名前を呼んで目が合った時。褒めるタイミングは無限にあります。減点方式で「ダメ」を探すのをやめて、加点方式で「イイね!」を探す達人になってみましょう。叱る回数が減り、褒める回数が増えるだけで、愛犬と暮らす時間は驚くほど穏やかになり、愛犬は「飼い主さんは僕のことを見てくれている」という安心感に包まれます。
心が繋がる暮らし方②:魔法の言葉「ただいま」「いい天気だね」が絆を深める
「犬は人間の言葉なんて分からない」と思っていませんか? 確かに、単語の意味を正確に理解しているわけではありません。しかし、犬は私たちが想像する以上に、飼い主のことを観察しています。私たちが話しかける時の表情、声のトーン、口調、そして全体の雰囲気から、「嬉しいんだな」「悲しいんだな」「穏やかな気持ちなんだな」という感情を驚くほど正確に読み取ることができるのです。
だから、ぜひ、普通の言葉でたくさん話しかけてあげてください。 「おはよう、よく眠れた?」 「ただいま!今日もいい子で待ってたね」 「お散歩行く?今日はいい天気だね」 「ご飯おいしい?」
子供に語りかけるように、優しい声で話しかけることで、愛犬は「自分は大切にされている」「ママはいつも自分に注意を向けてくれている」と感じるようになります。言葉そのものではなく、言葉に込められた愛情が、飼い主さんと愛犬の心の距離をぐんと縮めてくれるのです。
心が繋がる暮らし方③:「おやつ」より「大好き!」が最高のご褒美になる理由
何かを教える時、つい「おやつ」で気を引こうとしていませんか?しかし、「おやつ頼り」のコミュニケーションには注意が必要です。
おやつに頼りすぎると、愛犬の意識は「飼い主さん」ではなく「おやつ」にばかり向いてしまいます。その結果、
おやつがないと何もできない子になってしまう。
飼い主さんとの関係が「おやつをくれる人」という希薄なものになってしまう。
おやつをもらうために興奮しやすくなり、冷静な判断ができなくなる。
といった状態に陥りがちです。 私たちが育てたいのは、おやつがなくても、「大好きな飼い主さんに褒めてもらえることが、何より嬉しい!」と感じられる心なのです。
「おやつ」というモノの関係から、「大好き」という心の関係へ。この意識の変化が、揺るぎない絆を育みます。
「技」ではなく「絆」が命を救う。災害時に本当に役立つこととは?
「うちの子を絶対に守る」という強い気持ちを持って、これまでお話ししてきた「心が繋がる暮らし方」を続けていくと、飼い主さんと愛犬の間には、目には見えない強い絆が生まれます。愛犬は、大好きな飼い主さんが望むことを、自ら考えて行動してくれるようになるでしょう。
そしてこの「絆」こそが、災害という極限状況で、愛犬とあなた自身の命を守る最強の力となるのです。
突然の大きな揺れや物音に驚いても… パニックになってどこかへ逃げてしまうのではなく、真っ先にあなたの顔を見て「どうしたの?」と駆け寄ってきます。あなたが安全な場所だと知っているからです。
慣れない避難所で過ごすことになっても… あなたの傍で静かに寄り添い、周りの空気を読んで、むやみに吠えたり騒いだりしないよう努めてくれます。あなたの困った顔を見たくないからです。
混乱の中であなたの声がかき消されそうになっても… たくさんの物音の中から、あなたの「おいで!」という声だけをちゃんと聞き分けてくれます。いつも優しい声で話しかけてくれる、大好きなあなたの声だからです。
やむを得ず、一時的に離れることになっても… 「必ず迎えに来てくれる」と信じて、あなたを待っていることができます。これまでの毎日が、その信頼を築いてくれたからです。
これらは、「お座り」や「伏せ」といった個別の技(コマンド)ではありません。愛犬があなたを心から信頼し、「この人と一緒にいれば大丈夫」と確信しているからこそ取れる、究極の災害対応行動なのです。
まとめ:「この人さえいれば大丈夫」そんな飼い主になりましょう
ペット防災のための「しつけ」は、特別な訓練や難しいテクニックを必要とするものではありません。 それは、今日から始められる、愛犬との向き合い方の見直しの中にあります。
毎朝の「おはよう」の挨拶。 穏やかに過ごしている時の「いい子だね」の一言。 あなたを見上げる愛犬への、優しい微笑み。
この日々の小さな愛情の積み重ねこそが、何物にも代えがたい強い絆を育みます。そして、いざという時に愛犬が「この人さえいれば大丈夫」と心から頼れる、そんな飼い主になりましょう。それが、あなたと愛犬を守る最も確かな備えとなるのです。
さあ、今日から愛犬の「イイね!」を探してみませんか?その優しい眼差しが、未来のあなたと愛犬を救う、最初の一歩です。
ドッグライフカウンセラー 小川 京子
ペット防災で一番大切な事 飼い主のあり方はこちら https://petbousai.jp/guide/responsible-pet-ownership