災害時に愛犬の命を守る!パニックを防ぐ「落ち着かせる褒め方」

はじめに:なぜ「褒め方」がペット防災になるのか?
「ペット防災」と聞くと、備蓄品の準備や避難場所の確認を思い浮かべる方が多いでしょう。もちろんそれらは不可欠です。しかし、それらと同じくらい、いえ、時にはそれ以上に重要になるのが、飼い主さんと愛犬との「絆」と「コミュニケーション」です。
地震の揺れ、けたたましい警報音、見慣れない避難所。災害時の極限状況で、愛犬は私たちが想像する以上の恐怖とストレスに晒されます。パニックに陥り、普段ならしないような行動(吠え続ける、逃げ出そうとするなど)をとってしまうことも少なくありません。
そんな時、愛犬を我に返らせ、安心させる最後の砦となるのが、飼い主であるあなたの存在です。そして、その想いを伝える最も効果的な手段の一つが、日頃から行っている「褒める」というコミュニケーションなのです。
この記事では、特に災害という非常時に役立つ「愛犬を落ち着かせる褒め方」についてお話しします。パニックに陥った愛犬の命を救い、困難な避難生活を乗り越えるための、あなたと愛犬だけの「お守り」を見つけましょう。
褒め方、落ち着かせる褒め方
実は「褒め方」には、犬の気持ちを興奮させるものと、逆に落ち着かせるものの大きく分けて2種類が存在します。
多くの飼い主さんが無意識に行っている、顔や体を「わしゃわしゃ」と撫でたり、体の横を軽く「ポンポン」と叩いたりする褒め方。これは、犬のテンションを上げて「楽しい!」「嬉しい!」という明るい気分にさせます。ドッグスポーツや愛犬と遊んでいるときに効果的です。
一方で、これからご紹介する「落ち着かせる褒め方」は、愛犬をリラックスした状態に導き、災害時のパニックや避難所でのストレスを軽減するのに非常に有効です。
実践!今日からできる「愛犬を落ち着かせる撫で方」
では、具体的にどのように撫でれば、愛犬を落ち着かせることができるのでしょうか。ここでは、その方法と、より効果を高めるための秘訣をご紹介します。
基本は「ゆっくり、優しく、同じ方向へ」方法は非常にシンプルです。
毛並みに沿って、ゆっくりと撫でる
手のひら全体で、優しく圧をかける
撫で始めから終わりまで、手を止めずに同じ方向へ動かす(毛並みに逆らわない)
実はこの方法は、科学的にも裏付けがあります。
このようなゆっくりとした優しいタッチは、犬や人の脳内で「愛情ホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれるオキシトシンの分泌を促すことが研究で知られています。オキシトシンには心拍数を落ち着かせ、ストレスホルモンを減少させる効果が期待できるのです。つまり、飼い主さんの優しい撫で方は、愛犬の心と体を科学的にリラックスさせていると言えます。
何よりも大切なのは「飼い主さん自身のリラックス」
この時、最も大切なのは「飼い主さん自身がリラックスすること」です。あなたが緊張していると、その不安は愛犬に伝わってしまいます。深呼吸をひとつして、落ち着いた穏やかな気持ちで、愛犬に触れてあげましょう。
あなたと愛犬だけの「魔法のタッチ」を見つける4つのステップ
この撫で方の効果を最大限に引き出す秘訣は、あなたの愛犬が最も喜ぶ「場所」と「撫でられ方」を見つけ出すことです。これは、いわばその子だけの「魔法のタッチ」であり、最高のペット防災という名のお守りになります。
Step 1:最高のタイミングと環境を選ぶ
まずは、愛犬がすでにリラックスしている時に試しましょう。食後や散歩の後、あなたの隣でくつろいでいる時が最適です。テレビの音などを消し、静かで落ち着いた環境を整えましょう。
Step 2:愛犬が喜ぶ「場所」を探る
犬には撫でられて心地よいと感じるポイントがいくつかあります。様々な場所を優しく撫でてみてください。
眉間から鼻筋にかけて 耳の付け根(マッサージするように優しく揉むのも効果的)
頬やあごの下 首筋から肩にかけて
胸の中央 背中を、首の付け根から尻尾の付け根までゆっくりと
Step 3:好みの「撫で方」を見つける
場所だけでなく、撫で方にも好みがあります。
手のひら全体で 指の腹を使って 手の甲でそっと 圧の強弱(ごく軽く〜少し圧をかける)
Step 4:愛犬の「うっとりサイン」を見逃さない
愛犬にとっての「魔法のタッチ」を見つけるための答えは、すべて愛犬の反応が教えてくれます。
うっとりと目を細める 全身の力が抜け、体を預けてくる 「ふぅ…」とため息をつく 撫でるのをやめると、鼻先で催促してきたり、顔を見上げてきたりする
この「好みを探す時間」そのものが、愛犬との絆を深める極上のコミュニケーションになります。日々の暮らしの中にぜひ取り入れてみてください。
実践する上での大切な注意点
「魔法のタッチ」を探す際には、いくつか注意点があります。無理強いはせず、愛犬のペースを尊重しましょう。もし撫でている途中で愛犬が体をこわばらせたり、嫌がる素振りを見せたりした場合は、一度手を止めてください。
特に体のどこかに痛みや不調を抱えているサインかもしれません。また、非常に興奮している状態の犬を無理に押さえつけて撫でようとすると、逆効果になることもあります。まずは飼い主さんが落ち着き、犬が少し冷静になるのを待つことも大切です。
災害時に「魔法のタッチ」が真価を発揮する場面
平時から愛犬とのコミュニケーションに使っている「魔法のタッチ」は、災害という非常時にこそ真価を発揮します。
愛犬のパニックの兆候と飼い主の役割
大きな揺れや聞きなれない音で、愛犬が以下のようなパニックの兆候を見せたら、それは「魔法のタッチ」の出番です。
小刻みに震えている、落ち着きなくウロウロする、ハァハァと呼吸が速くなる、隠れて出てこない
この時、絶対にやってはいけないのが、飼い主さんがパニックになることです。あなたが大声を出したり、慌てて愛犬を追いかけたりすると、愛犬の不安は増幅してしまいます。
まず、飼い主さんが深呼吸をしてください。あなたが落ち着くことが、すべての始まりです。そして、いつも通りの優しいトーンで「〇〇(愛犬の名前)、大丈夫だよ」と声をかけ、ゆっくり近づき、「魔法のタッチ」で穏やかな時間を作ってあげましょう。
この時、触覚(撫でること)に加えて、聴覚(優しい声かけ)を組み合わせると、安心感はさらに高まります。「大丈夫、大丈夫。いい子だね」と、低く穏やかなトーンで声をかけ続けることで、あなたの落ち着きがよりダイレクトに伝わります。
避難所でのストレスを和らげる活用法
避難所では、慣れない環境と多くの人や他の動物の存在で、犬は常に緊張状態にあります。特にクレートやケージの中で過ごす時間が長くなるため、定期的な「魔法のタッチ」が非常に重要になります。
クレート越しに、指先で耳の付け根や頬など、愛犬が好きな場所を優しく撫でてあげる。
周りに人が少ない時間帯や静かな場所を選んで、クレートから出し、ゆっくりと撫でる時間を作る。
こうしたケアは、愛犬のストレスを軽減するだけでなく、避難所での吠えなどのトラブルを未然に防ぐことにも繋がります。
さらに、クレートの中に飼い主さんの匂いがついたタオルやTシャツ(嗅覚へのアプローチ)を一枚入れておくだけでも、慣れない環境での孤独感や不安を和らげる助けになります。「魔法のタッチ」と併用することで、より高い効果が期待できるでしょう。
まとめ:最高のペット防災は、日々の「絆」の中に
「落ち着かせる褒め方」は、災害時に愛犬の心を守るための強力なツールです。しかし、その効果は一朝一夕で得られるものではありません。
日々の暮らしの中で、愛犬が喜ぶ「魔法のタッチ」を探し、実践すること。その穏やかで優しい時間の積み重ねが、あなたと愛犬の間に何物にも代えがたい「絆」を育みます。
そして、その深く、強い絆こそが、災害という過酷な状況を共に乗り越えるための、最高の「ペット防災」となるのです。
ドッグライフカウンセラー 小川 京子
災害時に本当に役立つ、愛犬との絆を深める暮らし方 https://petbousai.jp/guide/living-with-dog