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災害時の偽情報に惑わされない為に【情報防災】の必要性

 はじめに:あなた自身を守る「情報防災」の必要性

台風や集中豪雨の季節が到来し、日本各地で自然災害への警戒が高まっています。避難袋の中身を点検し、ペット用の備蓄を確認されている飼い主さんも多いことでしょう。しかし、風雨や揺れといった物理的な脅威が過ぎ去った後、あるいはその最中に、もう一つの災害が私たちを襲います。それが「情報災害(インフォデミック)」です。

災害時、SNSなどにあふれる真偽不明の情報、悪意あるデマ、善意から拡散された誤解。これらは、ただ私たちを混乱させるだけではありません。私たちの「心」を疲弊させ、「冷静な判断力」を奪い、結果としてあなたと愛するペットの命を危険に晒す、直接的な脅威となるのです。

私たちNPO法人ペット防災ネットワークは、熊本地震をはじめとする現場で、情報によって飼い主さんが追い詰められていく姿を数多く見てきました。ペット防災とは、ペットを守ることと同時に、飼い主である「あなた自身」を守ることに他なりません。なぜなら、あなたが倒れてしまっては、あなたの腕の中にいる小さな命を守ることはできないからです。

本ガイドでは、「自分を守る」という視点から、災害時の偽情報がもたらす危険性と、その濁流の中で自分を見失わないための具体的な情報防災術について、詳しく解説していきます。

第1章:標的は「あなたの心」 なぜペットの飼い主は偽情報に弱いのか

災害という極限状況において、なぜペットに関する偽情報はこれほどまでに拡散しやすいのでしょうか。それは、偽情報が私たちの「愛情」や「不安」という最も敏感な感情を巧みに利用してくるからです。

「助けたい」という強い善意の悪用

「ビルに取り残された猫がいます!」「洪水で犬が流されそうです!」といった投稿を目にした時、「なんとかしなければ」という強い思いに駆られるのは、飼い主として自然な感情です。偽情報は、この純粋な善意を悪用し、「#拡散希望」といったタグを付けて、事実確認のいとまを与えずに反射的なシェアを促します。
「うちの子は大丈夫か」という極度の不安 「〇〇地区で毒餌が撒かれた」「避難所で感染症が発生」といったデマは、「うちの子も危険に晒されているのではないか」という飼い主の不安を直接的に煽ります。不安は、私たちの視野を狭め、批判的な思考を停止させ、普段なら信じないような情報でも信じ込ませてしまう力を持っています。

「ペットは家族」だからこその感情移入

ペットを愛する私たちは、被災した動物のニュースに深く感情移入します。その心理状態では、情報の真偽を冷静に分析するよりも先に、「かわいそう」「ひどい」という感情が先行しがちです。偽情報の発信者は、この感情の波に乗って、デマを事実であるかのように広めていくのです。

災害時、私たちは皆、精神的に脆弱な状態にあります。特にペットの飼い主は、「自分の命」と「愛するペットの命」という二重の責任を背負っているため、その心理的負担は計り知れません。偽情報は、その心の隙間に容赦なく侵入してくるのです。

腹立たしい事ですがそんな偽情報の目的は拡散される事による「インプレッション稼ぎ」被害を大きく見せる事によって「寄付金」を得るための目的なのです。

第2章:偽情報がもたらす現実の損害 ― あなた自身が受けるダメージ

偽情報を信じ、あるいは拡散してしまうことで、どのような具体的な損害が「あなた自身」に及ぶのでしょうか。

1. 時間・体力・資源の浪費 「〇〇避難所なら、ペットと室内で過ごせると聞きました!」という不確かな情報を信じて、悪路の中を苦労してたどり着いた結果、全くのデマだったとしたらどうでしょう。あなたは、災害時に最も貴重なガソリン、時間、そして心身のエネルギーを無駄にしてしまったことになります。その浪費が、その後の避難生活をより困難なものにするかもしれません。

2. 二次的な心の傷(セカンダリー・トラウマ) 繰り返し流れてくる動物虐待のデマや、救助を求める悲痛な(偽の)投稿に触れ続けることは、あなた自身の心に二次的なトラウマを刻みつけます。被災による直接的なストレスに加え、偽情報による精神的ダメージが重なることで、「コンパッション・ファティーグ(共感疲労)」に陥り、無気力になったり、精神的に追い詰められたりする危険性があります。

3. 生死を分ける判断ミス 「ペット同伴では、どこの避難所も受け入れてくれないらしい」 熊本地震で実際に広まったこの誤解は、多くの飼い主を避難所から遠ざけ、倒壊の危険が残る自宅での生活を選択させる一因となりました。偽情報によってもたらされた絶望感が、あなた自身を安全な場所から遠ざけ、命に関わる判断ミスを引き起こさせる。これこそが、情報災害の最も恐ろしい点です。

4. 金銭的な被害 被災者の善意につけ込む「偽の募金」や、ペットの一時預かりを装った詐欺なども発生します。善意から寄付したお金が、復興ではなく詐欺師の手に渡ってしまう。それは金銭的な損失だけでなく、「人を信じられなくなる」という深い心の傷を残します。

第3章:「情報防災」の実践。デマの濁流から自分を守るための盾

では、どうすれば情報の濁流から自分自身を守ることができるのでしょうか。日頃から意識し、訓練できる「情報防災術」を身につけましょう。

1. 平時のうちに「信頼できる情報源」を厳選し、備える
 災害が起きてから情報を探し始めるのでは遅すぎます。平穏な今のうちに、**信頼できる情報源だけを集めた「自分だけの防災情報リスト」**を作成しましょう。スマートフォンのブックマークに「災害時ペット情報」といったフォルダを作り、以下の公的機関や専門団体の公式サイト・SNSアカウントを登録しておきます。

お住まいの自治体(公式HP、防災アカウント)
地域の動物愛護センター、保健所
環境省、気象庁
地域の獣医師会
NPO法人ペット防災ネットワークなど、活動実績の明らかな支援団体
災害時には、まずこのリストの中から情報を確認することを徹底してください。

2. 自分の「感情の温度計」をチェックする
 強い怒り、悲しみ、焦りを感じさせる投稿に出会ったら、一度立ち止まってください。それは、あなたの感情を揺さぶり、冷静な判断力を奪うために設計された偽情報かもしれません。自分の「感情の温度計」が振り切れていると感じたら、シェアボタンを押す指を止め、情報の真偽を疑う「警戒モード」に切り替えましょう。

3. 情報を「ふるい」にかける一手間を惜しまない
 信頼性に欠ける情報に出会ったら、以下の手順で「ふるい」にかけます。

【S】Stop(立ち止まる): 反射的に信じない、シェアしない。まずは一呼吸おきます。
【I】Investigate(発信源を調査する): その情報を発信しているのは誰か?プロフィールを確認し、過去の投稿内容に偏りやおかしな点はないか調べます。
【F】Find(他の情報源を探す): 同じ内容を、先ほど作成した「信頼できる情報源リスト」の中の複数の機関が報じているか確認します。一次情報(公式発表)に近い情報源を探しましょう。
【T】Trace(元情報をたどる): 使われている写真や動画は、本当に現在のものか?Googleの画像検索などで、過去の災害で使われたものでないか確認します。
 

4. 意図的に「情報から離れる」時間を作る
 災害時、不安から常にスマートフォンを握りしめて情報を追い続けてしまうと、心は休まらず、デマに接触する機会も増えてしまいます。時間を決め、信頼できる情報源だけをチェックしたら、後は意図的に情報から離れる。あなた自身の心のエネルギーを守ることも、重要な防災活動です。

結論:あなたの「冷静さ」が、ペットを守る最強の盾になる

災害という混乱の渦中において、ペットは飼い主であるあなたを羅針盤として生きています。あなたが冷静であれば、ペットも安心感を得られます。あなたがパニックに陥れば、その不安は即座にペットに伝播し、状況をさらに悪化させるでしょう。

つまり、偽情報やデマからあなた自身の心と判断力を守ることこそが、何よりもまず先にすべき、最も重要なペット防災なのです。あなた自身が、愛するペットにとっての「嵐の中の避難所」とならなければなりません。

この「心の防災」は、一朝一夕に身につくものではなく、日頃からの意識と訓練が必要です。

避難情報のレベルに合わせた行動指針はこちら https://petbousai.jp/guide/evacuation-info