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【ペット防災】災害時の命綱「水」の備蓄ガイド

命を守る「量」と「質」の完全ガイド

1. 序論:なぜペットの「水」は特別なのか
大規模災害時、水は生存を左右する最も決定的な資源です。人間の場合、1人あたり1日3リットルの備蓄が推奨されていますが、家族の一員であるペットのための備蓄計画は、実は人間以上に繊細な配慮を必要とします。

近年の気候変動による災害の激甚化や広域災害のリスクを考慮すると、公助が機能するまでの「自助」の期間は、従来の3日間から1週間(7日間)以上へと延長して考える必要があります。言葉で喉の渇きを訴えられない動物たちの命を守るため、飼い主には生理学・水質化学に基づいた高度な知識が求められています。

2. 動物種別:1日に必要な「水」の量を正しく知る

備蓄量を算出する第一歩は、愛犬や愛猫が1日にどれくらいの水を消費するのかを知ることです。この量は単なる体重比ではなく、動物種ごとの進化の過程や代謝システムに大きく依存します。

犬:パンティングによる水分喪失に注意
犬の1日あたりの維持水分量は、一般的に体重1kgあたり40〜60mlとされています。しかし、これはあくまで安静時の数値です。 災害時の避難行動や、空調の止まった高温環境下でのストレスは、犬特有の体温調節行動である「パンティング(あえぎ呼吸)」を激化させます。この際、呼吸器からの水分蒸散が劇的に増加するため、夏季や興奮状態においては、通常の2倍以上の水が必要になることを想定しておくべきです。

猫:「隠れた脱水」が命取りに
猫の水分要求量は体重1kgあたり約50mlが目安です(例:4kgの成猫で1日200ml)。 砂漠出身の祖先を持つ猫は、尿を濃縮して水分を保持する能力が高い反面、「喉の渇きを感じにくい」という特性があります。避難所などのストレス環境下で水を飲まなくなると、尿の濃縮がさらに進み、ストルバイト結石などの結晶が形成されやすくなります。特に雄猫の場合、これが尿道閉塞を引き起こすと、わずか24〜48時間で尿毒症に陥り、致死的な状態になるリスクがあります。

ウサギ・小動物:体の小ささに反する大量消費
ウサギやハムスターなどの小型草食動物は、その体重に対して驚くほど大量の水を必要とします。 特にウサギは、体重1kgあたり50〜150mlもの水を摂取します。これは体重比で見れば犬の2倍以上の要求量です。例えば、体重2kgのウサギは、10kgの柴犬と同程度の水を消費することもあります。ウサギにとって水分不足は胃腸の動きが止まる「うっ滞」に直結し、数日で死に至る緊急事態を招くため、予備を含めた手厚い備蓄が不可欠です。

3. 備蓄のシミュレーション:7日間で必要な量と重さ

では、具体的にどれくらいの量を「重さ」として用意すべきでしょうか。インフラ復旧までの7日間を想定したシミュレーションを解説します。

トイプードル(3kg)の場合: 1日約0.18リットル、7日間で約1.26リットル(1.26kg)が必要です。
柴犬(10kg)の場合: 1日約0.6リットル、7日間で約4.2リットル(4.2kg)が必要です。
ゴールデンレトリバー(30kg)の場合: 1日約1.8リットル、7日間で約12.6リットル(12.6kg)が必要です。
一般的な猫(4kg)の場合: 1日約0.2リットル、7日間で約1.4リットル(1.4kg)が必要です。
ウサギ(2kg)の場合: 1日最大0.3リットル、7日間で約2.1リットル(2.1kg)が必要です。

ここで直面するのが「ロジスティクス(物流)」の問題です。人間は成人女性で5〜10kg、男性で10〜15kgが携行できる重量の限界とされています。例えば柴犬1頭と避難する場合、犬本体の重さに加え、7日分の水4.2kg、飼い主自身の水、フード、ケージなどを合わせると、総重量は20kgを超えてしまいます。

この解決策として推奨されるのが、「分散備蓄戦略」です。避難リュックには「最初の1〜2日分(500mlボトル2〜3本)」だけを入れ、残りは自宅での「ローリングストック(日常備蓄)」として確保しましょう。

4. 水質化学:ペットの健康を守る「硬度」の重要性

「人間用のミネラルウォーターなら安心」という考えは、ペットにおいては危険な場合があります。最も注意すべきは、水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量を示す「硬度」です。

軟水が鉄則、硬水はリスク
WHOの基準で硬度120mg/L以上を「硬水」と呼びますが、ペット、特に結石リスクの高い猫やウサギには、硬度60mg/L以下の「軟水」を選ぶことが鉄則です。

犬・猫への影響: マグネシウムやカルシウムが多い硬水(例:エビアンなど)を摂取し続けると、尿路結石の材料を過剰に取り込むことになります。災害時のストレスによる尿濃縮と硬水の摂取が重なることは、最悪のシナリオです。
ウサギへの影響: ウサギは食事中のカルシウムをほぼ全て吸収し、尿から排泄する特殊な代謝システムを持っています。硬水を飲むと膀胱内にカルシウムの泥が溜まる「膀胱スラッジ」や結石を引き起こし、激痛や尿閉を招きます。
備蓄水には、日本の水道水(軟水)や、国産の軟水ミネラルウォーター、あるいは不純物を完全に除去した「RO水(純水・ゼロミネラル水)」が最も安全な選択肢となります。

5. 実践的アドバイス:備蓄を無駄にしないテクニック

保存水と通常水の使い分け
一般的なペットボトルの保存期間は1〜2年ですが、備蓄専用の「長期保存水」はボトルの素材が厚く、5〜8年の保存が可能です。これは水の蒸発や周囲の臭い移り(灯油や洗剤など)を防ぐためです。嗅覚の鋭いペットは、微かな臭い移りでも飲水を拒否することがあるため、専用の保存水は非常に有効です。

「食べる水」としてのウェットフード
重量問題を解決するもう一つの手段が、水分含有量約80%のウェットフードです。100gのウェットフードを与えることは、実質的に80mlの水を補給するのと同じ効果があります。ストレスで水を飲まない個体でも、香りの強いウェットフードなら口にする可能性が高く、貴重な水分補給源となります。

給水ギアの選定
水があっても、容器がなければ飲ませられません。

折りたたみ式シリコンボウル: 軽量でかさばらず、避難リュックの外側に装着可能です。
ボトル一体型トレー: 飲まなかった水をボトルに戻せるタイプは、貴重な水を無駄にしないための災害時必須アイテムです。

6. まとめ

災害時のペットの生存率は、飼い主の事前の「知識」と「物資」に依存します。

量は最低7日分を想定し、避難用と自宅用に分散すること。
質は硬度60mg/L以下の軟水、または純水を選ぶこと。
普段から飲み慣れている水をローリングストックし、ストレス下での拒絶を防ぐこと。
大切な家族を守るために、今日から正しい「備蓄」を始めましょう。当法人では、こうした具体的なノウハウを詳しくお伝えする「ペット防災セミナー」を全国で開催しています。