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【ペット防災】環境省ガイドラインが突きつける「自助」|飼い主の責任

はじめに:その「期待」が命取りになる

「大災害が起きても、避難所に行けばなんとかなる」 「日本は災害大国だから、行政がペットのことも助けてくれるはずだ」

もしあなたが、心のどこかでこのように考えているとしたら、それは非常に危険な賭けです。いざ災害が起きたとき、その「期待」は裏切られ、あなたと大切な家族であるペットを路頭に迷わせることになるかもしれません。

私たちNPO法人ペット防災ネットワークは、多くの飼い主さんに厳しい現実をお伝えしなければなりません。それは、国の防災の基本方針である『人とペットの災害対策ガイドライン(環境省)』が、「ペットの命は、100%飼い主の自助努力で守るものである」と定義しているという事実です。

本記事では、このガイドラインを「お役所の文書」としてではなく、あなたとペットが生き残るための「生存マニュアル」として読み解き、なぜ今これほどまでに「自助」が叫ばれているのか、その本質に迫ります。

1. ガイドラインが示す「公助」の限界

日本の防災は「自助・共助・公助」の三層構造で成り立っています。しかし、ペット防災において、このバランスは人間の場合と決定的に異なります。

ガイドラインを詳細に分析すると、行政(公助)の役割は極めて限定的に記述されています。 行政が行うのは、基本的に以下の2点のみです。

場所の指定: 「この学校の、このエリア(軒下や体育館裏など)ならペットを置いても良い」という場所を決めること。
ルールの策定: 衛生管理や受け入れ条件などのルールを作ること。
ここに「ペットフードの配給」や「ケージの貸し出し」、「排泄物の処理代行」は含まれていません。人間の避難者には食料や毛布が支給されますが、ペットに関する物資や労力は、公助の対象外なのです。

なぜでしょうか? それは災害発生直後、行政職員は「人間の命」を救うことに忙殺されるからです。倒壊家屋からの救出、傷病者の搬送、ライフラインの復旧。限られた人員と資源を全て人命救助に投入しなければならない極限状態において、個々のペットの世話をする余力は物理的に存在しません。

つまり、ガイドラインは「公助は『場所』しか提供しない。その中で生き延びられるかどうかは、全て飼い主の『自助』にかかっている」と宣言している文書なのです。

2. 生存のための「3つの自助」

では、ガイドラインが飼い主に求めている「自助」とは具体的に何でしょうか。単に「ペットフードを買っておく」だけではありません。私たちはこれを「物質的備蓄」「行動的備蓄」「情報的備蓄」の3つに分類して定義しています。

① 物質的備蓄:「5日分」の根拠を知る

ガイドラインや自治体のマニュアルでは、ペットフードや水を「最低5日分、できれば7日分以上」備蓄することを求めています。 なぜ「5日」なのでしょうか。

過去の震災(東日本大震災や能登半島地震など)のデータを見ると、発災直後は物流が完全に麻痺します。道路が寸断され、ようやく届いた救援物資も、当然ながら人間用の水と食料が最優先されます。ペット用の支援物資が避難所に届き始めるのは、早くても発災から1週間後、場合によってはそれ以上かかることが常態化しています。

また、療法食や特定のアレルギー対応フードが必要な場合、支援物資として届く確率はほぼゼロに等しいと考えてください。「行政がなんとかしてくれる」という甘えは、愛犬・愛猫の飢えに直結します。 さらに、「ケージ(キャリーバッグ)」と「トイレ用品」は、避難所での「住居」そのものです。これらを持参しない場合、衛生管理上の理由から受け入れを拒否される正当な理由となり得ます。

② 行動的備蓄:「しつけ」は最強の防災装備

多くの飼い主さんが見落としているのが、この「行動的備蓄」、すなわち「しつけ」です。ガイドラインでは、平時からのしつけや健康管理を、重要な自助として位置づけています。

避難所という場所は、不特定多数の人間、他の動物、慣れない匂いや音に囲まれた、ペットにとって極めてストレスフルな環境です。 ここで求められるのは以下の2点です。

ケージ・トレーニング(ハウス待機): 普段室内フリーで暮らしているペットも、避難所ではケージの中での生活を余儀なくされます。「可哀想だから」と普段ケージに入れていないと、いざという時にペットがパニックを起こし、吠え続けたり、ケージを破壊しようとしたりします。 避難所では「鳴き声」が最大のトラブル源です。吠え止まない犬は、他の避難者(高齢者や体調不良者を含む)への「迷惑」とみなされ、最悪の場合、退去を求められることもあります。 「ケージに入って落ち着いていられること」は、避難所に居させてもらうための「滞在資格(ライセンス)」なのです。
社会化: 人や他の犬に対して過度に攻撃的になったり、怯えたりしないこと。これも集団生活を送る上での必須スキルです。
「しつけ」とは、単にお行儀よくさせることではなく、災害時にペットの「居場所」を確保するための、最も強力な防災対策なのです。

③ 情報的備蓄:「所有者明示」という責任

災害時は混乱を極めます。突発的な地震の揺れや、避難中のアクシデントでリードが外れ、ペットが脱走してしまう事例は後を絶ちません。 東日本大震災では、多くのペットが飼い主とはぐれ、放浪動物となりました。首輪だけでは外れる可能性があります。 だからこそ、ガイドラインは「マイクロチップ」と「迷子札」の二重装着を強く推奨しています。 「うちの子は逃げないから大丈夫」という過信は捨ててください。言葉の話せないペットにとって、マイクロチップは「私は〇〇さんの家族です」と主張できる唯一の手段なのです。

3. 自助が守るのは「あなた自身の命」

ここまでペットを守るための話をしてきましたが、実は「自助」を徹底することは、飼い主であるあなた自身の命を守ることに直結しています。

過去の災害において、ペットの備え不足が原因で、飼い主が危険な状況に追い込まれる「二重の悲劇」が繰り返されてきました。

エコノミークラス症候群のリスク

中越地震や熊本地震、そして今回の能登半島地震でも問題になったのが「車中泊」です。 「しつけができていないから避難所に入れない」「ケージを持ってきていないから断られた」 その結果、飼い主は狭い車内での生活を選択せざるを得なくなります。足を伸ばせない姿勢で長時間過ごすことで血栓ができ、死に至ることもある「エコノミークラス症候群(肺塞栓症)」。 ペットの準備不足は、飼い主をこの致死的なリスクに晒すことになるのです。

逃げ遅れのリスク

「ペットの避難準備に手間取って津波から逃げ遅れた」 「一度避難したが、家に残したペットが心配で戻り、犠牲になった」 これらも実際に起きた事例です。日頃から「同行避難」の準備(自助)が完璧であれば、迷わず、即座に、ペットと共に安全な場所へ脱出することができます。

つまり、「ペットの自助」は、飼い主の「避難の足かせ」を外し、生存率を高めるための安全保障でもあるのです。

4. 結論:愛するなら、備えよう

環境省ガイドラインが突きつける現実は厳しいものです。「同行避難」とは、単に「一緒に逃げること」であり、「避難所で快適に同居できること」を保証するものではありません。

しかし、この厳しさは「見捨てられている」ことと同義ではありません。 「公助に頼れない分、飼い主が主導権を持って守りなさい」というメッセージなのです。

行政職員も人間です。被災時には自分や家族を守るのに精一杯かもしれません。そんな中で、あなたのペットの命を最優先で守ってくれる他人は、世界のどこにもいません。守れるのは、あなただけです。

NPO法人ペット防災ネットワークの飼い主さん向けセミナーはこちら

5日分のフードを備蓄していますか? 愛犬・愛猫はケージの中で眠れますか? 迷子札とマイクロチップは装着されていますか?
これらの「自助」が完成して初めて、私たちは災害という理不尽な暴力から、大切な「家族」を守り抜くことができるのです。 今日からできる備えを、一つずつ確実に進めていきましょう。

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