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犬の吠えは環境で解決!避難所でも安心できる信頼関係の作り方

「うちの子、チャイムが鳴るとすぐ吠えてしまう…」 「散歩中に他の犬を見ると吠え止まらない」

愛犬の「吠え」で悩んでいる飼い主さんは本当に多いものです。住宅環境の変化や、室内飼育が一般的になった昨今の暮らし方の変化から、その悩みは近隣トラブルにも発展しかねない、より深刻なものとなっています。

しかし、この「吠え」の問題、単なる日常の悩みとして片付けていませんか? 実は、「吠えをコントロールすること」は、災害時に愛犬の命と生活を守るための最も重要な「ペット防災」の一つなのです。

今回は、ドッグライフカウンセラーの浅沼瑠実先生の知見を基に、犬が吠える原因と、災害時にも役立つ「環境と関係性の整え方」について解説します。

なぜ「吠え対策」がペット防災になるのか?

災害が発生した際、私たち飼い主はペットと一緒に逃げる「同行避難」が原則です。しかし、避難所で最も問題になり、飼い主さんを苦しめるのが「ペットの鳴き声(吠え)」です。

避難所には、動物が好きな人ばかりがいるわけではありません。アレルギーを持つ方や、動物が苦手な方、そして被災して心身ともに疲れ切っている方が大勢います。そのような極限状態の中で、愛犬が不安から吠え続けてしまったらどうなるでしょうか?

避難所への受け入れを拒否される

「うるさい」と苦情が出て、建物外や車中泊への移動を余儀なくされる
周りに迷惑をかけたくないあまり、避難所に行くことを諦めて倒壊の恐れがある自宅に留まってしまう
「吠え」は、災害時において飼い主さんの選択肢を奪い、最悪の場合、命の危険にさらすリスク要因となります。

逆に言えば、日常の中で吠えの原因を知り、正しい順序で整えておくことは、災害時における最強の防災対策になるのです。「吠え」は犬からのメッセージ。愛犬の気持ちを汲み取ろうとする姿勢こそが、有事の際にも揺るがない深い信頼関係をつくる第一歩となります。

犬が吠える「4つの大きな理由」を知ろう

「無駄吠え」という言葉がありますが、犬にとって意味のない吠えはありません。犬の吠えには必ず理由があります。 根本的な解決のためには、まず愛犬が「なぜ吠えているのか」を正しく理解する必要があります。特に多い理由は次の4つです。

1. 警戒・不安
災害時に最も出やすいのがこの吠えです。 普段と違う物音、知らない人、初めて会う他の犬などに対して、「怖いよ」「近づかないで」「こっちへ来るな」というサインを送っています。 避難所という慣れない環境は、犬にとって不安の連続です。このタイプの吠えが強い子は、普段から少しずつ「新しい環境」に慣らす練習が必要です。

2. 要求
「遊んでほしい」「散歩に行きたい」「ご飯を早くちょうだい」のように、相手(飼い主さん)に行動を促すための吠えです。 避難所ではケージの中で長時間待機する必要があります。「ここから出して!」と要求吠えを繰り返してしまうと、集団生活を送ることが難しくなります。

3. 退屈・ストレス
運動不足や刺激不足でエネルギーが余っていると、その発散として吠えが増えやすくなります。 災害時は散歩が十分にできないケースも多々あります。エネルギーの発散方法を「吠えること」以外に見つけてあげる必要があります。

4. 学習による吠え
これは飼い主さんの対応が大きく関わっています。 例えば、「吠えたら抱っこしてくれた」「吠えたらおやつをもらえた」という経験をすると、犬は「吠えれば良いことがある」と学習してしまいます。 また、「インターホンや他犬に吠えかかったら、相手がいなくなった(通り過ぎた)」という経験も、「自分が吠えて追い払った!」という勘違いの成功体験となり、吠えを強化してしまいます。

これらはそれぞれ理由が違います。そのため、「とにかく吠えたら叱る」という一辺倒な対応では根本解決になりませんし、場合によっては悪化させてしまうこともあります。

叱るよりも「環境と関係性」を整える方が早くて確実

「吠えたらダメ!」と大声で叱っていませんか? 吠えの多くは、犬自身が不安になったり、興奮して気持ちを整理できない状態で起こります。そんなパニック状態の時に、信頼している飼い主さんから怒鳴られたらどうでしょう? 余計に不安になり、混乱してしまいます。

だからこそ、飼い主さんが愛犬の気持ちに寄り添い、「守ってあげられる存在」になることが大切です。 重要なのは以下の2点です。

犬が安心できる環境づくりと飼い主さんとの落ち着いた関係性

◎ まずやるべき環境づくり
物理的な環境を変えるだけで、吠えの原因となる刺激を遮断し、愛犬を落ち着かせることができます。これは災害時の避難所設営のシミュレーションにもなります。

玄関まで飛び出さないレイアウトにする
来客時に興奮して玄関まで走ると、警戒心が高まります。ゲートなどを設置し、人が入ってきても犬が直接接触しない距離を保てるようにしましょう。

インターホン音を小さくする
音が「敵襲の合図」にならないよう、音量を下げたり、音の種類を変えてみるのも効果的です。

外の刺激がよく見える窓は目隠しをする
窓から見える通行人や車に吠えている場合、すりガラス風シートを貼るなどして視界を遮るだけで、驚くほど落ち着くことがあります。 ※避難所でも、ケージに布をかけて視界を遮ることで、犬のストレスを大幅に軽減できます。

ハウス(クレート)を安心できるスペースに
これがペット防災において最も重要です。狭い場所はかわいそうではなく、犬にとって「守られた安全な巣穴」であるべきです。普段からハウスでリラックスできるように整えておきましょう。

犬が「自分で自分を守らなきゃ(だから吠えて追い払わなきゃ)」と必死にならなくて済む環境、つまり「守らなくていいんだ」と感じられる環境を用意することは、それだけで吠えを劇的に減らします。

毎日の暮らしで実践!吠えを改善する3つのステップ

環境を整えたら、次は飼い主さんの対応(関係性)を見直していきましょう。

1. 落ち着く経験を積ませる
犬は飼い主さんの感情を敏感に感じ取ります。 飼い主さんが慌てて「コラッ!」と叫べば、犬も興奮します。逆に、飼い主さんが深呼吸し、行動する前に静かな声で話しかけてから動くだけでも、犬には「飼い主が落ち着いているから大丈夫だ」という安心感が伝わります。

2. 吠える前の“予兆”を見つける
実は、犬はいきなり吠えるわけではありません。吠える直前に必ず「予兆」のサインを出しています。

耳がピクッと立つ 体がグッと前に出る(重心が変わる) じっと一点を見つめて固まる 口元に力が入る
これらは「あ!何か来たぞ、吠える準備だ!」というサインです。 このサインが出た瞬間に、「大丈夫だよ」と優しく声をかけたり、おやつで気を逸らせたり、静かに対象物から距離をとったりしてください。 「吠えてから止める」のではなく「吠える前に安心させる」。これで吠えを未然に防ぐことができます。

3. 吠えを“放置しない”
「いつものことだから…」「もう10歳だから今更無理…」と、半ば諦めて吠えを放置していませんか? 実は、この「放置する」という対応こそが、犬の吠えをさらに増幅させてしまう最大の原因です。

放置されると、犬は「この行動(吠え)は許容されている」「この行動は正しいんだ」と誤解し続けます。 必ず「今の吠えは、いらないこと(しなくていいこと)だよ」と明確に伝えることが大切です。

できるだけ早く、どんな方法でもいいので止めてあげましょう。

落ち着いて抱っこをする マズルを優しく抑える 落ち着く声かけをする その場からすぐに距離をとる
多くの場合、今までの習慣が「反射的な吠え」に繋がっています。その習慣を覆すには、根気とタイミングが必要です。しかし、諦めずに伝え続ければ、犬は必ず応えてくれます。

まとめ:しつけは「愛犬を守る防災活動」です

犬が「あ、この吠えは自分にとっても飼い主さんにとっても、いらないことだったんだ!」と気づくことができれば、みるみるうちに様々なシーンでの吠えは減っていきます。

吠えが減れば、普段の生活が穏やかになるだけでなく、災害時にも周囲に気兼ねなく避難所へ向かうことができます。クレートの中で静かに待機できることは、愛犬自身のストレスを減らし、命を守ること直結します。

愛犬の成長や変化を楽しみながら、諦めずに「吠え」と向き合ってみてください。 その日々の積み重ねが、いつか来るかもしれない災害の日に、あなたと愛犬を必ず助けてくれます。

ドッグライフカウンセラー 浅沼 瑠実

災害時のペット同行避難の注意点はこちら