【獣医師監修】愛猫を守る!平時から実践したい猫の災害対策10か条

はじめに:備えは愛情。猫の習性を理解した災害対策を
地震や水害など、いつ起こるか分からないのが自然災害です。その時、あなたの大切な愛猫を守れるのは、飼い主であるあなた自身しかいません。犬とは異なる猫ならではの習性や繊細さを理解し、それに合わせた準備をしておくことが、猫の命と心を守る上で何よりも重要になります。
この記事では、NPO法人ペット防災ネットワークの副理事長であり、獣医師でもある大下勲先生の監修のもと、猫の飼い主様に平時から必ず実践していただきたい「10の災害対策」を、その理由や具体的な方法と共に詳しく解説します。
① 飼育頭数を制限しましょう
猫は犬のように毎日散歩に連れて行く必要がないため、つい多頭飼育になりがちです。しかし、災害という非常事態を想定したとき、自分が責任を持って安全に避難させられる頭数には限界があることを冷静に認識する必要があります。
災害発生時、あなたは一頭ずつキャリーバッグに入れ、全ての猫を抱えて安全な場所まで避難できますか?避難所や車の中で、全ての猫の食事や排泄の世話をし、健康を管理し続けることができますか?1頭あたりの備蓄品の量も、頭数が増えればそれだけ膨大になります。
愛猫一頭一頭の命に最後まで責任を持つということ。それは、災害時に自分一人で確実に守りきれる頭数に制限するという、平時からの覚悟と判断も含まれるのです。
② 安全な隠れ場所を用意しましょう
猫は恐怖を感じると、狭く暗い場所に逃げ込んで隠れる習性があります。大きな地震の揺れに驚き、パニックになった猫が、冷蔵庫の裏や家具の隙間といった、人の手が届かない場所に逃げ込んでしまうことは少なくありません。
飼い主が必死に猫を探しているうちに、余震で家具が転倒したり、火災から逃げ遅れたりといった二次被害に遭う危険性も高まります。最悪の場合、救助が間に合わず、猫を家に残したまま避難せざるを得ないという悲痛な決断を迫られる可能性すらあるのです。
そうした事態を防ぐため、普段から猫が「安全」と感じられる隠れ場所を用意してあげましょう。最も適しているのは、そのまま避難にも使えるキャリーバッグやケージです。日頃からリビングなどに置き、扉を開放して自由に出入りさせ、中で特別なおやつをあげたり、お気に入りの毛布を敷いたりして、「ここは自分だけの安心できるテリトリーだ」と教えてあげましょう。
③ 避妊・去勢手術をしましょう
災害時の混乱で、自宅の窓ガラスが割れたり、ドアが壊れたりして、猫が外に逃げ出してしまうケースは後を絶ちません。もし避妊・去勢手術をしていない場合、屋外で他の猫と交配し、望まない繁殖につながる可能性があります。
生まれてきた子猫たちは過酷な環境で生きることになり、その地域の野良猫問題や生態系にも深刻な影響を及ぼしかねません。また、発情期のストレスは猫にとって大きな負担であり、避難生活という極限状態では、健康を損なう一因にもなります。
愛猫を守るため、そして社会に対する責任を果たすためにも、特別な理由がない限り、避妊・去勢手術を必ず行いましょう。
④ マイクロチップを装着しましょう
首輪と迷子札は必須ですが、災害時には何かの拍子に外れてしまう可能性があります。マイクロチップは、そうした万が一の際に、愛猫があなたの大切な家族であることを証明する、確実で永続的な身分証明となります。
災害時にはぐれてしまった猫が保護された際、マイクロチップが装着されていれば、専用のリーダーで情報を読み取り、データベースに登録された飼い主情報と照合することで、迅速に連絡を取ることができます。熊本地震やその他の災害でも、マイクロチップによって多くの猫が飼い主の元へ帰ることができました。
動物病院で簡単に装着できますので、必ず装着し、指定登録機関への情報登録までを完了させてください。また、引っ越しや電話番号の変更があった際は、登録情報の更新を忘れないようにしましょう。
迷子の猫の探し方はこちら 絶対に諦めない。災害時に迷子になった愛猫のための体系的捜索ガイド
⑤ ワクチン接種をしましょう
「うちの子は完全室内飼いだからワクチンは必要ない」と思っていませんか?しかし、災害時はその常識が通用しません。自宅が損壊し、避難所や一時預かり先で、他の多くの猫たちと生活する可能性も十分に考えられます。
そうした多頭飼育の環境は、感染症が広まりやすい非常に危険な状況です。ストレスで免疫力が低下している猫にとっては、なおさらです。他の猫を守るため、そして何よりあなた自身の愛猫を感染症から守るために、平時から混合ワクチン(3種混合など)の定期的な接種を必ず行いましょう。ワクチンの種類や接種時期・回数については、かかりつけの動物病院に相談してください。
⑥ ノミ・ダニの駆除をしましょう
ワクチンと同様に、ノミ・ダニの定期的な駆除も、完全室内飼いの猫にとって重要な災害対策です。避難所のような場所では、一頭に寄生したノミやダニが、あっという間に他の動物に広がってしまう可能性があります。
また、ノミやダニは皮膚炎やアレルギーの原因となるだけでなく、様々な病気を媒介します。中にはSFTS(重症熱性血小板減少症候群)のように、動物から人へ感染し、時に人の命に関わる病気もあります。愛猫の健康はもちろん、飼い主自身や周囲の人々の公衆衛生を守るためにも、定期的な駆除薬の投与を徹底しましょう。
⑦ 色々な食事に慣れさせましょう
猫は非常にグルメで、かつ保守的な動物です。食べ慣れないものに対して強い警戒心(ネオフォビア)を示すことが多く、いつもと違うフードを全く受け付けない子も珍しくありません。
災害時には、いつも食べている特定の銘柄のフードが手に入るとは限りません。支援物資として届くのは、あなたが知らないメーカーのドライフードかもしれません。そんな時、愛猫が何も口にできなくなってしまっては、命に関わります。
平時から、特定のフードだけに偏るのではなく、複数のメーカーのドライフードや、様々な味・形状のウェットフード(パウチタイプなど)をローテーションで与え、色々な食事に慣れさせておきましょう。特にパウチのウェットフードは、食事と同時に水分も補給できるため、飲水量が減りがちな避難生活では非常に重宝します。
⑧ 色々なネコ砂に慣れさせましょう
食事以上に、猫はトイレの砂に対して強いこだわりを持つことがあります。粒の大きさ、素材、匂いなどが気に入らないと、排泄を我慢してしまう子がいます。オシッコを我慢することは、膀胱炎や尿路結石といった深刻な病気の引き金となりかねません。
支援物資でどのようなタイプの猫砂が届くかは分かりません。普段使っているものが手に入らない状況は十分に考えられます。食事と同様に、鉱物系、紙系、木系、おから系など、普段から複数の異なるタイプの猫砂を試しておき、愛猫が抵抗なく使える砂の種類を増やしておくことが、避難生活での健康維持に繋がります。
⑨ きちんとした体重管理をしましょう
日頃からの適切な体重管理は、猫の健康の基本であり、重要な災害対策の一つです。肥満の猫は、適正体重の猫に比べて糖尿病になるリスクが4倍にもなると言われています。
さらに恐ろしいのが、肝リピドーシス(脂肪肝)です。これは、肥満の猫が環境の変化や強いストレスなどによって数日間食事を食べなくなると、肝臓に脂肪が過剰に蓄積し、肝不全を引き起こす命に関わる病気です。災害による避難生活は、まさにこの病気の引き金となりかねません。
愛猫が健康で長生きするため、そして災害という過酷な状況を乗り越えるための体力をつけておくためにも、日頃から適切な食事管理で適正体重を維持することを心がけましょう。
⑩ 定期健診を受けましょう
猫は、体の不調を隠すのが非常に上手な動物です。飼い主が見ただけでは健康そうに見えても、実は病気が進行しているケースは少なくありません。災害によるストレスで急に体調を崩したように見えて、実は被災前から問題があったということも多くみられます。
平時から動物病院で定期的に健康診断を受け、愛猫の健康状態を正確に把握しておくことが重要です。万が一、持病が見つかった場合は、災害時も治療を継続できるよう、常備薬は最低でも2週間分以上、余裕を持って準備しておきましょう。また、その薬の内容(薬品名、投与量など)を正確に把握し、お薬手帳などに記録しておくことも忘れないでください。
大切なねこちゃんのためにちゃんとしましょう。獣医師 大下 勲
▶大下動物病院ホームページはこちら https://oshita-animal.com/
NPO法人ペット防災ネットワーク 副理事長 大下獣医師