活動方針

Activity Policy

私たちの活動方針

日本は、その地理的特性から地震、台風、豪雨、火山噴火といった自然災害から逃れることのできない国です。私たちは、この避けられない脅威と常に隣り合わせで生活しています。このような状況下で、私たち人間自身の安全確保はもとより、かけがえのない家族の一員であるペットたちの命と安全をどう守るかという「ペット防災」は、もはや個人的な課題ではなく、社会全体で取り組むべき喫緊のテーマとなっています。

「3割の課題」は、社会インフラに関わる重要課題

現在、日本の総世帯数の約3割が何らかのペットを飼育しており、その総数は15歳未満の子供の数を大きく上回っています。この数字が意味するのは、ペット防災がもはや社会の一部の問題ではなく、社会の仕組みそのものに関わる重要課題であるという厳然たる事実です。

「3割の課題」とは、3割の世帯が抱える直接的な困難に留まりません。災害時にペットを案じるあまり避難を躊躇し、命を落とす飼い主。車中泊などで心身の健康を損なう「災害関連死」のリスク。避難所における衛生環境の悪化や、動物由来感染症のリスク管理、アレルギーを持つ人々との共存。避難所でペットが理由のトラブルが起きれば、それは他の被災者、避難所運営者の問題ともなります。更にペットが放浪動物となって地域環境が悪化すれば、それは被災者全体の公衆衛生と安全を脅かし、円滑な復興の妨げとなります。

このように、連鎖的に発生する問題は、ペット防災が飼育者のためだけにあるのではないことを明確に示しています。したがって、ペットの災害対策を構築することは、飼育者の命と心を守ることはもちろん、他の被災者や避難所運営者を含めた「被災者全体への支援」であり、ひいては「被災地全体の復興支援」に不可欠な要素なのです。

この「3割の課題」から目を背けることなく、全ての住民の安全と安心に繋がる対策を講じること。それが現代の日本社会に課せられた責任です。

繰り返される悲劇:災害の教訓が活かされていない現状

近年の大規模災害において、私たちはペットとの同行避難を巡る悲しい混乱を幾度となく目の当たりにしてきました。避難所での受け入れ拒否、不十分な飼育環境、鳴き声や臭いを巡るトラブルは、被災者全体の生活環境を悪化させ、ただでさえ極限状態にある人々の間に、深刻な軋轢を生んでいます。

この混乱の根本的な原因は、災害対策の基本であるはずの「過去の災害の徹底的な検証」と、そこから得られるべき教訓が十分に活かされていないことにあります。災害が発生する度に場当たり的な対策が講じられ、メディアの関心が薄れると共に風化し、次の災害でまた同じ悲劇が繰り返される。この負の連鎖を断ち切らなければなりません。私たちは、この現状を打破し、東日本大震災、熊本地震、そして令和6年能登半島地震といった数多の災害から得られたエビデンスに基づいた、実効性のある対策への転換を社会全体に強く求めます。

活動の根幹をなす2つの基本方針

私たちは、この現状を変革し、全ての被災者が少しでも穏やかに過ごせる環境を整備するため、ペット防災の根幹をなす二つの大きな方針を掲げ、活動を展開します。

【方針1】自助の原則:「飼い主の適正飼育」の徹底的な啓発と実践

災害時におけるペット防災の最も重要な基盤であり、全ての対策の出発点となるのが、「飼い主の日頃からの適正飼育」を基本とした自助努力です。いざという時に行政や支援に多くを依存するのではなく、まず「自分の家族は自分で守る」という強い意志と具体的な準備が、ペットと飼い主自身、そして周囲の人々を救います。

「適正飼育」とは、単に日々の食事や散歩に限りません。以下の多岐にわたる項目を、平時から実践し続けることです。

健康と安全の管理: 狂犬病予防注射をはじめとする各種ワクチンの接種、ノミ・ダニの駆除、定期的な健康診断。そして、迷子にさせないためのマイクロチップ装着や逸走防止対策。
社会性の涵養: 無駄吠えをさせない、ケージやクレートに慣れさせる(ハウス・トレーニング)、他の人や動物を怖がらない、といった基本的なしつけ。これは避難所での集団生活におけるトラブルを最小限にするために不可欠です。
災害への直接的な備え: 少なくとも7日分のペットフード、水、常備薬の備蓄。ペット用の避難用品(キャリーバッグ、トイレ用品、リードなど)をまとめた「非常用持ち出し袋」の準備。そして、かかりつけの動物病院や避難所以外の一時預け先を複数確保しておくこと。
この自助の徹底こそがペット防災の土台であり、私たちはペット防災セミナーやウェブサイト、SNSでの継続的な情報発信を通じて、その重要性と具体的な方法を社会全体に訴えかけ、一人ひとりの飼い主の実践を力強くサポートします。

【方針2】公助・共助の確立:検証に基づく「実効性ある支援体制」の構築

飼い主による自助努力を最大限に引き出し、個人の力だけでは対応できない部分を補完し支えるのが、行政による公助と地域コミュニティによる共助の役割です。私たちは、自治体や関係機関に対し、国の「防災基本計画」や環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」といった公的指針に準拠し、かつ地域の実情に合わせて具体化された、実効性のある支援体制の構築を強く働きかけます。

「実効性ある体制」とは、計画書が棚に眠っている状態ではありません。

役割分担の明確化: 平時から、自治体(避難所の開設・運営、住民への情報伝達)、獣医師会(ペットの医療救護、公衆衛生管理)、そして私たちのようなNPOやボランティア団体(現場での飼育支援、専門的知見の提供)が、それぞれの役割と責任範囲を定めた協定を結んでおくこと。
具体的な計画策定: 災害発生時の情報伝達ルート、ペット同行避難者の受付手順、避難所内でのゾーニング(飼育エリアと一般エリアの分離)、支援物資の集約と配分方法などを、具体的に定めたマニュアルを策定すること。
実践的な訓練の実施: 地域の総合防災訓練の中に、ペット同行避難訓練を必ず組み込み、住民、行政職員、獣医師、ボランティアが合同で手順を確認し、課題を洗い出す機会を定期的に設けること。
私たちは、過去の災害対応で得た知見を基にした専門的なペット防災セミナーの開催やコンサルティングを通じて、こうした実現可能な体制づくりを全国で支援します。

目指す未来:「人と動物が共生する社会」の実現へ

人とペットが共に安全に避難できる社会は、飼い主の自助、地域コミュニティの共助、そして行政による公助が、それぞれの役割を十分に果たし、三位一体となって緊密に連携することによって初めて可能になります。

私たちの活動は、この自助・共助・公助の歯車を円滑に回すための触媒(カタリスト)となることを目指しています。飼い主の適正飼育という揺るぎない土台の上に、官民の枠を超えた関係機関の真の連携が実現したとき、それは単なるペット防災という枠組みを超え、社会全体のレジリエンス(強靭性)を高め、真の意味での「人と動物が共生する社会」の礎となると固く信じています。

災害に強い社会とは、インフラが頑丈であるだけではありません。社会的に弱い立場にある存在(高齢者、障がい者、子ども、そして動物たち)に眼差しを向け、誰一人取り残さないという優しさと想像力に満ちた社会です。日頃からの備えと過去の教訓に学び、未来への具体的な行動を積み重ねることで、災害の脅威に屈しない、強靭で心豊かな共生社会を、皆様と共に築き上げていきます。