「マイクロチップ+迷子札+鑑札」。災害時に愛するペットを守る身元証明

「マイクロチップ+迷子札+鑑札」
「もし、災害や不意の事故で愛犬や愛猫が迷子になったら…」 考えただけでも胸が張り裂けそうになるこの不安は、すべての飼い主様が共有するものです。特に、地震や水害、あるいは雷の音に驚いての脱走など、ペットがパニック状態ではぐれてしまうケースは後を絶ちません。
私たちNPO法人ペット防災ネットワークは、このような悲劇を一つでも減らすため、平時からの備えの重要性を訴え続けています。そして、数あるペット防災対策の中でも、愛するペットの命を繋ぐ「最後の砦」となりうるのが、確実な身元証明です。
結論からお伝えします。現在のペット防災において、最も確実で効果的な身元証明は「①マイクロチップ」「②迷子札」「③鑑札・注射済票(犬の場合)」という三重の備えです。この記事では、なぜこの組み合わせが最強なのか、それぞれの役割と重要性について、深く掘り下げて解説します。
第一の砦:見えないお守り「マイクロチップ」
マイクロチップは、あなたの愛犬・愛猫だけの「電子的な身分証明書」です。一度体内に装着すれば、脱落や紛失の心配がほぼないため、半永久的に身元を証明し続けてくれます。
Q1. マイクロチップってどんなもの?仕組みは?
マイクロチップは、直径約1.4mm〜2mm、長さ8mm~12mm程度の非常に小さな円筒形の電子標識器具です。この小さなカプセルは、生体への影響が極めて低い特殊なガラスやポリマーで覆われています。
内部には、世界でたった一つだけの15桁の識別番号が記録されたICチップとアンテナが内蔵されています。重要なのは、このチップ自体には飼い主様の名前や住所などの個人情報は一切含まれていないということです。
では、どうやって身元がわかるのでしょうか? 答えは、動物病院や動物愛護センターなどに置かれている専用の「リーダー(読み取り機)」にあります。
保護された犬や猫にリーダーをかざすと、リーダーから微弱な電波が発信されます。
マイクロチップがその電波をエネルギーとして受信し、記録されている15桁の識別番号をリーダーに送り返します。(※チップ自体に電池は不要です)
リーダーに表示された15桁の番号を、指定登録機関のデータベースで照会します。
番号に紐づけられた飼い主様の連絡先情報が判明し、無事に連絡が取れる、という仕組みです。
Q2. 体に入れて本当に安全?痛みはないの?
マイクロチップの装着は獣医療行為であり、必ず動物病院で獣医師が行います。犬も猫も、一般的に首の後ろ(頸背部)の皮下に、専用の注入器(インジェクター)で挿入します。
痛みについて: 感覚としては、普段のワクチン接種などの注射に近く、ほとんどのペットは麻酔なしで処置を終えることができます。避妊・去勢手術など、別の処置で麻酔をかけるタイミングで同時に装着することも可能です。
安全性と副作用: 安全性は国際的にも非常に高いと評価されています。世界中で数千万頭以上の装着実績がありますが、体内でのアレルギー反応や重篤な副作用の報告はほとんどありません。レントゲンやCT検査への影響もなく、MRI検査でごくわずかに画像が乱れる可能性はありますが、診断の妨げになることは稀です。
Q3. 法律で義務化されたって本当?
はい。2022年6月1日に施行された改正動物愛護管理法により、ブリーダーやペットショップなどの販売業者が犬や猫を販売する際には、マイクロチップの装着と情報登録が義務化されました。
これにより、2022年6月1日以降にペットショップなどから犬や猫を迎えた飼い主様は、ご自身の情報へと変更登録することが法律上の義務となっています。
すでに一緒に暮らしているペットや、知人から譲り受けたペットへの装着は「努力義務」とされていますが、ペット防災の観点からは、すべての犬と猫に装着が強く推奨されます。この法改正は、安易な遺棄を防ぐと共に、災害時などにおける動物の迅速な返還を目指す、社会全体の取り組みなのです。
Q4. 費用はどれくらいかかるの?
費用は、大きく「装着費用」と「登録手数料」の2つに分かれます。
装着費用: 動物病院によって異なりますが、一般的には数千円から1万円程度です。
登録・変更登録手数料: 環境大臣が指定する登録機関への情報登録に手数料が必要です。オンライン申請:400円郵送(紙)申請:1,400円 (※2024年4月1日時点)
【最重要】マイクロチップの真価は「情報更新」で決まる
ここで、マイクロチップを装着している全ての飼い主様に、最もお伝えしたいことがあります。それは「登録情報の更新」です。
引っ越しで住所が変わった、携帯電話を買い替えて電話番号が変わった…そんな時、データベースの情報を更新しなければ、せっかく愛犬・愛猫が保護されても、あなたに連絡が届きません。古い情報のままのマイクロチップは、装着していないのと同じなのです。
情報の変更手続きは、指定登録機関のウェブサイトからオンラインで簡単に行えます。愛するペットの命を守るための「お守り」が、いざという時に確実に機能するように、定期的な情報確認と、変更があった際の迅速な更新をどうか忘れないでください。
環境省犬と猫のマイクロチップ登録情報についてはこちら https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/pickup/chip.html
第二・第三の砦:「迷子札」と「鑑札」の併用が最強である理由
マイクロチップが完璧な身元証明なら、なぜ他にも必要なの?と疑問に思うかもしれません。その理由は、マイクロチップが持つ唯一の「弱点」と、それぞれの札が持つ法的な意味合いにあります。
マイクロチップの最大の弱点は、専用のリーダーがなければ情報を読み取れないことです。 もしあなたのペットが家のすぐ近くで迷子になり、親切なご近所さんが保護してくれたとしても、その方はリーダーを持っていません。動物病院や警察署、愛護センターなどに連れて行かれて初めて、その真価が発揮されます。
第二の砦:迷子札が持つ「即時性」という強み
一方で、首輪についた迷子札は誰の目にも明らかです。
迅速な連絡と帰宅: 保護した人がその場で迷子札に書かれた電話番号に連絡できるため、保護から帰宅までの時間を劇的に短縮できます。これは、不安な時間を過ごすペットにとっても、飼い主様にとっても、計り知れないメリットです。
「飼われている子」であることの証明: 首輪と迷子札は、その子が誰かに大切にされていることを示す重要なサインです。これにより、保護の対象外になったり、通報が遅れたりするのを防ぎます。
第三の砦:犬に義務付けられた「鑑札・注射済票」
犬の飼い主様には、狂犬病予防法により、「犬の登録(生涯に1回)」と「狂犬病予防注射(年に1回)」、そしてそれらを証明する「鑑札」と「注射済票」を犬に着けておくことが法律で義務付けられています。
これらは、単なるアクセサリーではありません。
公的な登録証明: 鑑札には登録番号が記載されており、その番号から自治体で確実に飼い主を特定できます。
衛生管理の証明: 注射済票は、狂犬病予防という公衆衛生上の重要な義務を果たしている証明です。
災害時、多くの人が避難する避難所などでは、こうした公的な衛生管理の証明が、ペットの受け入れをスムーズにする上で非常に重要な役割を果たすことがあります。
このように、それぞれが異なる役割を担い、弱点を補い合っています。この三重の備えこそ、愛するペットを守るための、現在のペット防災における最強の布陣なのです。
今すぐ始めよう!愛するペットを守るためのアクションプラン
ペット防災は、特別なことではありません。日々の暮らしの中の、少しの意識と行動から始まります。
未装着の方へ: まずはかかりつけの動物病院にマイクロチップ装着について相談してみましょう。
装着済みの方へ: 今日、この機会に登録情報を確認しませんか?情報が最新の状態になっているか、指定登録機関のウェブサイトでチェックしてみてください。
すべての方へ: ペットに合った首輪(猫はセーフティバックル推奨)と迷子札を用意し、連絡先を明記しましょう。
犬の飼い主様へ: 法律で義務付けられている「鑑札」と「注射済票」は、必ず首輪など分かりやすい場所に着けてください。
私たちNPO法人ペット防災ネットワークでは、こうした具体的な備えについて、より詳しく学べるセミナーを定期的に開催しています。専門家から直接話を聞くことで、あなたのペット防災意識はさらに高まるはずです。
愛する家族を守るための備えに、「やりすぎ」はありません。確実な身元証明で、万が一の時に後悔しないための選択をしていきましょう。
正しいペット防災の知識を得るためのペット防災セミナーはこちら https://petbousai.jp/seminar