災害時に命を守る「同行避難」とは?準備と注意点を徹底解説

はじめに:「同行避難」はペットとあなたの命を守る最重要原則
大規模な災害が発生した際、ペットと一緒に避難場所まで避難すること=「同行避難」は、環境省も推奨する飼い主がとるべき行動の基本原則です。私たちNPO法人ペット防災ネットワークも、平成28年熊本地震などの災害現場で「ペットがいるから避難所に行けない」「車の中でずっと過ごしている」といった飼い主の方々の切実な声を数多く聞いてきました。
ペットを家に残して避難することへの不安から、危険な自宅に留まったり、避難のタイミングが遅れたりする状況は、飼い主自身の命をも危険に晒すことになりかねません。災害が起きたら「迷わず、ためらわず」ペットと一緒に避難を開始してください。この記事では、なぜ同行避難が絶対に必要なのか、そしてそのために今から何を準備すべきかを、私たちの活動経験も踏まえながら具体的にお伝えします。
なぜ「置き去り」は絶対ダメ?過去の災害に学ぶ、同行避難3つの理由
過去の多くの災害では、やむを得ずペットを置き去りにしたことで、たくさんの悲しい別れが生まれました。その教訓から、現在ではペットとの同行避難が国の方針として強く推奨されています。その理由は、ペットのためだけでなく、あなた自身と社会全体を守るためでもあります。
理由①:ペット自身の命を守るため
最も明白な理由です。置き去りにされたペットは、建物の倒壊や火災、津波といった直接的な危険に晒されます。たとえ運良く生き延びたとしても、水や食料が尽きれば飢えや渇きに苦しみ、瓦礫などで負傷したり、不衛生な環境で感染症にかかったりするリスクも非常に高くなります。
東日本大震災では、多くのペットが飼い主と離れ離れになり、救助されることなく命を落としました。このような悲劇を二度と繰り返さないためにも、ペットを危険な場所に残さないことが飼い主の第一の責任です。
理由②:飼い主自身の安全と心を守るため
「ペットが心配で、危険だと分かっている自宅の様子を見に戻る」という行動は、飼い主が二次災害に巻き込まれる非常に危険な行為です。実際に、過去の災害ではこうした行動で命を落とした方もいます。同行避難は、このような危険な行動を防ぐための最善策です。
また、過酷でストレスの多い避難生活において、ペットがそばにいてくれることは、計り知れないほどの心の支えとなります。ペットの温もりに触れることは、不安を和らげ、困難を乗り越えるための大きな力となるでしょう。これは「アニマルセラピー」の効果としても知られており、非常時におけるペットの存在は、飼い主の精神的な健康を保つ上でも極めて重要です。
理由③:社会全体の安全を守るため
置き去りにされ、飼い主とはぐれたペットが放浪状態になると、社会全体に様々な問題を引き起こす可能性があります。飢えや恐怖から人に危害を加えたり、糞尿による公衆衛生上の問題(感染症の媒介など)を引き起こしたりするケースも少なくありません。
また、飼い主不明の動物を保護・収容する活動は、自治体や動物愛護団体にとって大きな負担となります。災害時の限られた救助リソース(人手、物資、時間)は、人命救助に最優先で使われるべきです。飼い主が責任を持ってペットと同行避難することは、社会全体の負担を軽減し、円滑な救助活動に貢献することにも繋がるのです。
これらの理由から、「ペットも家族の一員として共に避難する」という考え方が、現在のペット防災の基本となっています。
いざという時に慌てない!「同行避難」3つの事前チェックリスト
同行避難をスムーズに実行するには、平時からの具体的な準備が不可欠です。私たちのペット防災セミナーでも繰り返しお伝えしている重要なポイントです。お住まいの自治体の情報を元に、以下の3点を必ず確認し、家族で共有しておきましょう。
1.避難所の場所と複数の候補
まず、自治体が指定する避難所がどこにあるか、ハザードマップや自治体のウェブサイトで正確に把握します。その際、自宅から避難所までの道のりに危険な場所(河川、崖、古いブロック塀など)がないかも確認しましょう。
重要なのは、避難先を一つに絞らないことです。最も近い指定避難所が使えない可能性も想定し、複数の避難先候補をリストアップしておきましょう。親戚や友人の家、ペット同伴可能な宿泊施設なども選択肢になります。車をお持ちの場合は「車中泊避難」も視野に入れ、そのための準備も考えておくと安心です。
2.安全な避難ルートの確認と予行演習
普段使っている通勤・通学路が、災害時に安全とは限りません。地震による家屋の倒壊、ガラスの飛散、豪雨による道路の冠水などを想定し、より安全な避難ルートを複数考えておきましょう。
そして、必ず実際にペットを連れて避難ルートを歩いてみる「予行演習」を行ってください。キャリーバッグやカートにペットを入れ、防災グッズを持った状態で歩いてみると、「思ったより重くて進めない」「この道は夜だと暗くて危険だ」といった課題が見えてきます。昼間だけでなく、夜間の状況も確認しておくことが、いざという時の落ち着いた行動に繋がります。
3.ペットの受け入れ条件の具体的な確認
これが最も重要な確認事項です。指定避難所がペットの同伴を許可しているか、そしてどのような条件で受け入れているかを、事前に必ず確認してください。「ペット可」とされていても、その条件は避難所によって大きく異なります。
以下の点について、自治体の担当部署(防災課、環境衛生課、保健所など)に具体的に問い合わせておきましょう。
受け入れは可能か?(そもそも同伴自体が可能か)
ペットの飼育場所はどこか?(屋内か屋外か、人の居住スペースとは別か)
ケージやキャリーバッグは必須か?
提示が必要な書類はあるか?(狂犬病予防注射済票、ワクチン接種証明書など)
その他、特別なルールはあるか?(餌や水の備蓄、トイレの処理方法など)
こうした情報は、自治体が開催するペット防災に関するセミナーなどで説明されることもあります。積極的に情報を集め、最新の状況を把握しておきましょう。
「同行避難」と「同伴(同室)避難」の大きな違い
ここで、しばしば混同されがちな2つの言葉の違いを明確にしておく必要があります。
同行避難:災害発生時に、飼い主がペットを連れて避難所まで安全に避難すること。これが国が推奨する大原則です。
同伴避難(同室避難):避難所内で、飼い主とペットが同じ空間(部屋)で過ごすこと。
残念ながら、日本の多くの避難所では、アレルギーを持つ方や動物が苦手な方への配慮、衛生管理上の問題などから、ペットとの同室避難は認められていないのが現状です。多くの場合、人の居住スペースとは別に、体育館の隅や屋外のテント、車庫などにペット専用の飼育スペースが設けられます。
この違いを正しく理解し、どのような環境でもペットが安心して過ごせるよう、普段からケージやキャリーバッグに慣れさせておく「ケージトレーニング」が極めて重要になります。
まとめ:計画的な準備が、あなたとペットの未来を守る
災害はいつ、どこで起こるか予測できません。しかし、事前の備えがあれば、あなたと愛するペットの命を守れる可能性は格段に高まります。どこへ、どのように、何を持って避難するのか。具体的な計画を立て、家族で共有し、実際に訓練しておくことが、飼い主の最も重要な責任であり、最大の愛情表現です。
まずは、この記事で紹介したチェックリストを元に、ご自身の防災計画を見直すことから始めてみてください。そして、より詳しい知識や具体的な備えについては、全ての基本となる国のガイドラインに目を通したり、私たちが開催するペット防災セミナーに参加したりすることをお勧めします。正しい知識と計画的な準備が、あなたと大切な家族の一員であるペットの未来を守ります。
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